2023年2月21日、日本を代表する著名な企業の法務パーソンを講師に迎えた「すごい法務EXPO'23」が開催されました。およそ600人が参加したイベントとなった本イベントから、各講演を抜粋してレポートします。

本講演は株式会社刀 シニア エグゼクティブ・ディレクター リーガル&ライセンスを務めている尾崎 美和氏を講師にお迎えし、経営陣に近い立場で経営判断をサポートする法務パーソンの考え方とあり方についてお話を伺いました。

弁護士資格取得後、大手法律事務所、上場企業で経験を積み、現在はベンチャー企業で直接経営判断に影響を与える立場で業務を行っている尾崎氏の知見と経験について、GVA TECH株式会社の代表、山本 俊が切り込みます。

大手法律事務所〜上場企業勤務からベンチャー企業へ

山本:
本日は「経営判断を支える法務と経営とのコミュニケーションのあり方」をテーマに、色々お話を伺えればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。まずは自己紹介をお願いします。

尾崎美和氏(以下、尾崎氏):
はじめまして、尾崎です。現在は株式会社刀というベンチャー企業で法務全般に関わっています。

私の最初のキャリアは2006年に西村あさひ法律事務所から始まりました。西村あさひ法律事務所は企業法務の法律事務所で、そこでM&A関連の業務や取締役会・株主総会関連の業務、ジェネラルコーポレート案件と言われるいわゆる顧問業務をしていました。西村あさひ法律事務所には約10年間在籍し、その間にKDDIの経営戦略本部企業戦略部という法務部とは違う部門で1年3ヶ月働きました。その後、米国のロースクールに留学し、現地のシリコンバレーの法律事務所で1年くらい働かせていただきました。

西村あさひ法律事務所を退職後、株式会社タカラトミーという玩具メーカーに4年間ほど在籍し、前半の2年間は法務の責任者を務め、後半の2年間は経営企画の責任者を兼務しました。

そして、2020年にタカラトミーを退職して、株式会社刀に入社し、現在に至ります。

山本:
大手法律事務所、海外勤務、メーカー、ベンチャーと、いろいろなご経験をされていらっしゃいますね。そのなかで、今日のテーマである「経営とのコミュニケーションのあり方」について、さまざまな気付きがあったかと思いますが、それぞれのお立場でどのような業務をしていたのか、そこでの気付きなどについてお話いただけますか。

尾崎氏:
西村あさひ法律事務所に所属していた当時、私は顧問先へ外部法律事務所としてのサポート業務を担当しており、会社の経営意思決定のプロセス自体に関わる仕事ではありませんでした。しかし、法律事務所で働いているなかで、私は決定的に「ここが課題だ」と感じる点がありました。

たとえば、M&A案件においては、クライアントである会社側に判断していただかなければならないポイントがたくさん存在します。そのような場合、弁護士として「この点は御社でご判断ください」と判断いただきたいポイントを提示していましたが、さらに一歩踏み込んで、この経営判断をするために必要な考慮要素は何か、必要な情報をどのように得ることができるか、情報収集のために必要な部署へのアクセス方法など、意思決定を支援するための具体的な方法をサポートする弁護士の存在も必要で、そのようなサポートができる弁護士の付加価値は非常に高いと感じていました。

西村あさひ在籍の頃の自分はもちろん企業で働いたことがなかったため、「この点は御社で判断してください」と依頼したあと、企業内でその後誰がどうやって判断をしているのか、という具体的なイメージがなかなか持ちづらかったんです。

そこで、経営に近い立場で経営判断を下すサポートができるようになりたいという思いが強まりました。そういう課題意識が芽生えたときにちょうどKDDIに出向させていただく機会がありました。KDDIで配属されたのは法務部ではなく経営戦略本部 企業戦略部というところで、会社のM&Aを推進する部門だったのですが、会社のM&Aに関する意思決定プロセスをリードする仕事をしていました。

M&Aに関してお話すると、特に大企業だとM&Aにはいろいろな部門が関わっていて、判断しなければならないポイントも、誰か一人が簡単に決定できるものではなく、各部門の視点や情報をいただいた上で判断しなければなりません。情報を集めた上で、さらに経営の意思決定に必要な情報を取捨選択しなければならないわけです。

また、情報を収集して経営に上げていくためには、会社の情報をよく知っていることが必要です。KDDIでのM&Aにおける法務の仕事は、情報収集だけでなく、経営判断に役立つ形でさまざまな情報を統合することが求められるため、重要な学びを得ることができました。

西村あさひ法律事務所を退所して次の職場として移ったタカラトミーでは、法務の仕事だけでなく、経営企画の責任者も担当することになり、部門横断でさまざまな情報を収集して会社の課題を整理するといった仕事にも携わっていました。

また、取締役会や経営会議など重要な意思決定をする会議体の事務局を私が務めるようになった際には、経営判断をいただくべき事項が何であるのか、それに関する経営陣とのディスカッションも含めて経験しました。このような経験は自分自身を成長させることができました。

山本:
僕も株式会社で働いたのはGVA TECHつまり自分の会社が初めてでした。稟議制度を自分で初めて作ったのですが、もともと稟議には非常にネガティブなイメージがありました。ですが、自分で制度を作ってみて、稟議のプロセスでいろんな人の意見が入ってきて、それによって適切な会社の意思決定ができる制度なんだと気づけました。

尾崎先生もKDDIやタカラトミーなどで、さまざまな人が絡んだ意思決定の解像度が、法律事務所時代よりも具体的に上がったのでしょうか?

尾崎氏:
はい。法律事務所に勤めていた当時、私は会社について知らないだけでなく、想像すらできていなかったと思います。稟議と言われても何となくしかイメージできませんでしたし、稟議がなぜ必要なのかも深く考えることができませんでした。

しかし会社で働くようになって、会社内での意思決定や判断を求められるようになった時には、さまざまな視点や情報が必要であることを痛感しました。それらを適切に収集してから経営判断をすることが必要であり、そうしなければ正しい経営判断をすることはできません。

山本:
尾崎先生は株式会社刀に現在いらっしゃいます。タカラトミーからの転職の経緯について教えてください。

尾崎氏:
タカラトミーでは経営陣の近くで経営企画の仕事をしていてとても充実していました。また、経営陣の近くで仕事をできたことで、なぜこの仕事をするのか、なぜこの時期までに行う必要があるのか、なぜこの方法で行うのかなど、自分が納得して腑に落ちた上で仕事をすることができ、これらのことが、自分にとって仕事をする上で非常に重要だと実感しました。

経営の近くで仕事をすると、経営の意思決定に関わることが多くなるため、経営の意思決定がなぜ行われたのかが分かるとともに、その前提となる情報も把握できます。すると、「なぜこの仕事をするのか」という点をより理解できるようになり、手段に関しても自分なりに工夫できる余地が広がると思いました。

ですので、経営の意思決定の近くで仕事をしたいという思いが一層強まりました。

一方で、私のキャリアは法律事務所での弁護士が始まりでしたので、自分が投資してきた時間や経験も踏まえると、自分自身の強みをもっと深めないと経営に本当に役に立つ人材になれないのではないかと感じました。

企業法務とひとことで言っても、業種や企業のフェーズによってやるべきことが異なります。ある時期から、自分が携わったことのない、これまでとは異なるフェーズで、企業内法務のスキルを高められるような仕事がしたいなと思うようになりました。特にゼロから事業を作る、ゼロから法務のチームを作る、そういうフェーズで自分の経験を深めていけたらいいなと思っていたところに、ちょうど今の会社とのご縁がありました。

刀はまさに事業を作るフェーズ、会社を作るフェーズ、貪欲に成長を欲するフェーズにありましたので、2020年に転職を決めました。

山本:
これまで籍を置かれてきた企業とは規模が全然違うかと思います。経営陣との距離は明らかに近くなっていますよね。そこで経営の意向は汲み取りやすくなっていますか?

尾崎氏:
前職でも経営企画の責任者だったということで、ありがたいことに経営陣とは近い距離感でコミュニケーションできる立場でした。刀では、経営陣との距離感は以前とさほど変わっていませんが、未上場企業ということもあり経営の意思決定をするスピード感は異なっていると感じます。

法務パーソンが案件報告を数値化する「コツ」

山本:
法律事務所の役割の変化や企業から求められている能力、企業内弁護士との考え方の違いについて、法律事務所から大企業、そしてベンチャーと多様なご経験をされてきた尾崎先生のご見解をお聞かせ願えますか。

尾崎氏:
10年ほど法律事務所に在籍し、その後は企業内で仕事をしているのですが、外部の弁護士とやり取りをしていて感じるところは、同一案件に関わっていても、立場の違いから自ずと役割分担ができているところがありますよね。

たとえばある案件では、法律事務所の先生には「法的リスクを正確に分析いただくこと」を求めます。具体的には、最新の法律や判例、実務を踏まえたリスク分析を行っていただき、法的に可能な選択肢を提示していただくといったことです。

一方で、同じ案件に関わっていても企業内法務として私が軸足を置いているのは、経営判断の材料を得ることです。法律事務所にご提示いただいた情報は納得のいく経営判断をするために必要で、企業側にいる私の仕事は「会社の価値観・会社の利害関係者の性質に応じた判断の仕方を考えること」です。

会社側での判断が必要な事項について、私自身で判断できることもありますし、CFOに相談して判断することもあれば代表や取締役会にかけて判断する必要があることもあります。その判断のレベル感は会社内にいるからこそ分かるポイントです。

私以外の人に判断していただく場合には、その方が判断を下すために必要な情報を漏れなく集める必要があります。会社内での情報収集はもちろん、外部の弁護士や事務所からの情報も踏まえて、必要な情報を厳選して経営判断に上程することが重要です。

経営に情報を上げる際は、自分だったらどういう判断をするか、自分なりの結論も含めて経営に図るということもしています。加えて、会社の価値観についての理解も非常に重要なポイントです。

役割の違いから、このような作業は外部ではなく内部の人間でなければできないことだと考えています。

山本:
外部弁護士としての僕の場合はベンチャー企業の経営者と接する機会が多かったので、法律の話をするときには、経営判断に役立つように加工してアドバイスする工夫はしていました。尾崎先生の現在のお立場で、経営判断に役立つように情報を整理するプロセスで、なにか工夫している点はありますか?

尾崎氏:
私は提案する際に、まず対象となる事項の目的を明確にすることから始めます。目的を明確化するとは、この会議の目的はなにか、議論の対象となる事項についてそれは何を達成しようとしているか、優先するべきは何かを言語化することです。これにより、参加者全員が理解し合えるようになります。

もちろん、当たり前のことを言う必要はありませんが、少なくとも自分自身は、目的と手段を明確に区別して整理し、それを共有するようにしています。ここは私なりに工夫しているポイントです。

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会社のフェーズに応じて目的を明確化・言語化する

山本:
刀もそうですし、タカラトミーもそうですが、会社の置かれている環境や状況によって法務として求められることは異なるかと思います。フェーズに合った対応をされる際の工夫としてはどのようなことをされていますか?

尾崎氏:
まず、利害関係者への配慮は会社のフェーズによって異なると思います。たとえば、上場企業では社外役員が意思決定者の一員となっており、社内の情報量が異なるなかで意思決定してもらう必要があります。その際、社外役員にどの程度の情報を共有し、意思決定に必要な情報を提供するかは、上場企業特有の悩みであるかと思います。

一方、現在の会社には常勤役員以外の役員もいますが、株主としての立場にあり距離が近いですよね。不特定多数の株主を抱えていないという点で、上場企業とは異なる利害関係があります。そのため、意思決定のスピードを早めるための工夫がしやすい環境であると思います。

山本:
法律事務所も含めて、いままでの経験で共通する部分があれば教えてください。

尾崎氏:
法律事務所での仕事と、企業内でどういうことを日々意識して仕事をしているかを振り返ってみると、目的を明確化する、かつ、目的と手段を分けて考える、というのは非常に大事だと思っています。

目的もいろいろなレベルの目的があります。たとえば「今日この会議の目的は?」というのは自分でしっかり考えれば答えが出ます。一方で、「この案件をどうするか、この案件の目的は?」となると、会社の価値観や会社のなりたい姿、中長期の戦略を踏まえての議論になります。

かつ、会社として「こうなりたい姿」があったとしても、たとえば個別の案件での意思決定のときには、得るものだけではなく失うものも大きそうな判断を求められる場合があります。そのときには、会社の中長期の戦略や事業計画から目的がそのまま導き出されるわけでもありません。その都度その時点で得たいものの優先順位を経営として明確につけておかないと、目的が曖昧になってしまいます。

ですので、目的を明確にするというのは言うのは簡単なのですが、すごく難しいです。もしも明確になっていない目的があるとしたら、目的自体を明確にするような動きをする。会議の中でも、いましゃべっている議論の対象に関する目的について「いまはこう認識しているのですが合っていますか?」というすり合わせをしてみる、といったことも含めて、目的を明確化するために主体的に動くことは非常に大切かと思っています。

ほかには、言語化することも意識しています。法務の仕事をしていると、要素を取り出して言語化する点は非常によく訓練されます。たとえば契約書を作るときというのは、言語化のトレーニングがなされているわけですよね。自分自身もその点は得意だと自覚しています。

大きな組織で何か物事を進めるときには言語化しないと共有できないし、実行できません。当たり前のようですが大事なことだなとよく思います。会議体の事務局として議事録を作る際にも、会議の場で話されたことをメモするのが大事なのではなく、メモした上で次の実行フェーズに移すためには次に何の議論を進めなければならないのか、どうやるのか、を言語化し切るところが大切です。

ここは法務パーソンである皆さんが非常に得意な分野で、会社の実行フェーズにおいて役に立てる部分ではないかと思います。

山本:
おっしゃるとおりですね。

経営陣に伝わる形で法務として相談事項を言語化するためには、なにかしら工夫しなければならないと思うのですが、尾崎先生が工夫していることはありますか?

尾崎氏:
数値化するとこを工夫しています。たとえば、あるリスクの発生する可能性の程度について、法的な文章だと「可能性が高い」「低い」「必ずしも高くない」といった表現をすることが多いかと思います。そういう可能性の程度に関して、法務に関わっている人とのやり取りでは違和感がなくても、経営陣は「それって何%程度の話なの?」と知りたいわけです。

ですので、たとえば外部の法律事務所から「可能性は必ずしも高くない」といった見解をもらったときには「それって何%くらいの話ですか?」と法律事務所の弁護士と議論をして、だいたいこれくらいかなと数値のイメージを持ってから経営陣と話す、というところは工夫をしています。

企業で働くようになってから、「それって何%の話ですか?」と法律事務所と話すことでリスクに対する議論や理解が深まることが分かりました。法律事務所の弁護士は、前提となる情報が会社内の人間よりも当然少ないので、どうしても幅を持った表現をせざるを得ないんだと思います。

そこで「何%だと思います?」と聞いでみると「こういう前提だとこれくらいになるし、このケースではこれくらいかもしれない」と、弁護士からの回答に分岐が生まれたり、提供する情報が不足していることが分かったり、新しい情報があればもっとクリアに可能性の程度が明らかになったりと、そういう議論の深まり方をすることがあるので、意識してやってみると良いかと思います

山本:
リスクの数値化は勇気が要りますよね。

尾崎氏:
そう思います。ですので、たまに知財の先生から「商標の取得可能性は80%です」といったように回答が出てくると、数値として出してくれるんだとびっくりします。普段の法律事務所とのやり取りのなかで可能性をパーセンテージで提示されたことはほとんどありません。勇気がいりますよね。

山本:
でもリスクを数値化して共有できると、経営陣としては許容できるリスクかどうかの判断は遥かにしやすくなりますね。

尾崎氏:
少ないと言われても、10%か40%かで判断が変わり得ると思います。

山本:
ありがとうございます。他に工夫されているポイントはありますか?

尾崎氏:
行き詰まったときに「一歩引いて考える」というのは大事だと思います。

一歩引いて何を考えるかというと、この取引をすることによって誰にどういう利益があり、誰がどういうリスクを被ってしまうのかを改めて考えてみるとか、今後もそのバランスが変わらないのかを考えるといったことです。今後も利益とリスクのバランスが変わらないか、この先もこの取引をこの条件で継続的に行っても誰からも不満が出てこないか、というところを考えることですね。

他にも、Aさんがこれだけの利益を得るのであれば、この取引にもっと協力してもらってもいいのではないかと関係者の巻き込み方を考えたりもできるようになりますね。一歩引いてみて利益とリスクのバランスを考えることは意識してやっています。

法律事務所の力を最大限に引き出す2つのポイント

山本:
経営判断を支えていくなかで、企業価値について考えることも多いかと思います。全体の判断や経営判断についてどの程度までご自身で関与していらっしゃるのでしょうか。

尾崎氏:まず、自分の法務という軸について言いますと、自分自身が持っている意見が経営の判断に直結する環境にありますので、法務の分野に関しては判断をリードする意識で行います。

経営判断をする過程において、私自身が意見や提案、結論を言うことは大事だと思いますが、その過程で法律事務所に深く関与いただくケースも多くあります。法律事務所に個別具体的な論点ではない経営の意思決定に関する意見を聞くことは、行われている会社とそうでない会社があるかと思いますが、私は積極的に行っている方だと思います。

常日頃からコミュニケーションできる、信頼できる法律事務所とのお付き合いがあるのでしたら、結論が出なくてもいいので「一度ディスカッションさせてください」と意見を聞いてみる、それもひとつの事務所だけではなく複数の事務所に聞いてみることで、情報を集め切ったと自分として自信を持てるようになり、経営判断の場で「こうするのが良いと思います」と意見を言えるようになります。

一方で、会社の価値観など法務以外の観点については、自分の発言はつい躊躇してしまう場面もあると感じています。それでも、自分自身が会社にこうあってほしい、こういう姿になってほしい、ということを踏まえて言えることがあれば、控えめにではありますが「これは私の法務の専門領域ではありませんが、私はこう思います」と言えるように修行中です。

こうやって、一つずつ積み重ねていくことが大切なのではと普段考えています。

山本:
ありがとうございます。経営相談としても法律事務所と関わりを持たれているというお話ですが、法律事務所との良い関わり方、あるいは、どのようなコミュニケーションを取ると法律事務所の力を最大限引き出せるのか、という点について、尾崎先生のお考えはどのようなものでしょうか?

尾崎氏:
まず一点目として、事実を伝え切ることが大切です。たとえば依頼した分析に関して、自分が分析をした経験が過去にあれば、どういう事実を伝えたらちゃんとした回答が出てくるかは想像できるかと思います。

そうでないような案件は、そもそも、どのような事実があれば抜け漏れのない分析ができるか想像しきれないため、分析を依頼するときにできればメール1本だけではなく、口頭で情報提供し、法律事務所からも「こういう情報はありませんか」と深堀りしてもらうような議論ができる場を設けるのがポイントです。

二点目は、法律事務所へのフィードバックです。法律事務所からアドバイスしてもらったことが最終的にどう結実したのか、結実する上でどういう点に支障をきたし、どのような課題をどう乗り越えて結論へと至ったのか、といった全体像をできるだけフィードバックしています。

法務パーソンは日頃から忙しいので、法律事務所へ依頼するところまではしっかりやってアドバイスをもらっていると思いますが、その後法律事務所に結果をフィードバックをすることまでは行われていないかもしれません。ですが、できるだけ会社のことを理解してもらうためにも、フィードバックは重要だと考えています。

私が法律事務所にいたときに感じていたのは、会社の経営判断に関するアドバイス、一歩踏み込んだアドバイスは、弁護士としてもやり甲斐があると思います。なので、互いに良い関係が作れるように、アドバイスをもらったらその結果をフィードバックする、そうすることで関係がさらに深まっていける気がします。

山本:
フィードバックまでもらえると法律事務所としても次またやりがいを感じられますね。

法務から経営への道のり

山本:
それでは最後のご質問です。法務から経営への道のりという議論が最近出てきています。尾崎先生のご経験を踏まえてご意見をいただければと思います。

尾崎氏:
私が意見を言える立場かどうかというのはありますが、法務、特に攻めの経営をするような場合には、法務の知見は非常に重要ですし、経営判断に欠くことができない要素です。

昨今はいろいろな意味での規制も強まっています。事業特有の規制のみならず、個人情報保護であったり反社排除に関しても企業に求められていることが増えていると感じます。経営の意思決定において法務に関する多岐に渡る知見が必要になってくるかと思いますので、そのなかで法務が経営判断にとって重要なのは間違いありません。

また、法務という部門は会社横断的、もしくはグループ横断的に全社的な業務に関わっていくことが多い立場でもあります。経営陣との接点を持ってリスク面のところを法務がしっかりカバーしていく、フォローしていく。攻めの場合に手段を提案していくという立場で、横とも縦ともつながるハブ的な存在になっているかと思います。

なので、法務は非常にユニークなポジション、会社の中で欠くことのできない、かつ会社全体に関わるユニークな存在であるということを踏まえて、経営の近くで会社を支えていければいいなと思っていますし、私自身もそのような仕事ができたらいいなと思っています。

山本:
そういった立ち位置として、今後尾崎先生が取り組んでいきたい業務や考えていることはありますか?

尾崎氏:
事業を創る、会社の組織体制、特に私の場合は法務チームを創ることを含め、それぞれ創るフェーズでイチから納得できるものを作りたいと思っています。まさにいま会社でやらせていただいているのですが、それが今もっとも私がやりたいことです。

やってみて初めて、何故こういう組織が必要だったのか、何故こういうルールが必要だったのか、これまで腑に落ちなかったものが腑に落ちる気がしていて、納得した上で創ったものやその創り上げた経験を次の世代に繋げられたらいいなと思っています。

山本:
今日は貴重なお話をありがとうございました。

尾崎氏:
こちらこそありがとうございました。