2023年2月21日、日本を代表する著名な企業の法務パーソンを講師に迎えた「すごい法務EXPO'23」が開催されました。およそ600人が参加したイベントとなった本イベントから、各講演を抜粋してレポートします。

本講演は、日清食品ホールディングス株式会社でCLO・執行役員 ジェネラル・カウンセルを務めている本間正浩弁護士を講師にお迎えし、中堅法務からジェネラル・カウンセルになるにはどのような道筋をたどればよいのか、ご自身の経験と知見を元にお話しいただきました。

ジェネラル・カウンセルとはなにか、ジェネラル・カウンセルに求められる資質とはなにか、といった基本的な定義はもちろん、企業の前線で現在活躍している中堅法務パーソンがジェネラル・カウンセルになるためにはどのような考え方が必要なのか、GVA TECH代表の山本俊がファシリテーターを務め、徹底的に引き出します。

ジェネラル・カウンセルに求められる3つの資質

日清食品ホールディングス株式会社でCLO・執行役員 ジェネラル・カウンセルとして活動している本間氏は、日本の数少ない真の意味でのジェネラル・カウンセルとして知られています。

本講演のテーマである「中堅法務からジェネラル・カウンセルへの道のり」に入る前、まずは本間氏がこれまで歩んできたキャリアについてお話がありました。

1989年 弁護士登録。以後10年間、法律事務所で弁護士として活動する。足掛け4年間に渡ってイギリス留学を経験し、ロンドンの法律事務所で研修の後、インドの法律事務所での勤務後に帰国。

1999年 ゼネラルエレクトリックの子会社であるGEエジソン生命保険のジェネラル・カウンセル兼執行役員としてインハウスロイヤーとしてのキャリアがスタート。その後DELLや新生銀行の法務部長等を経験。

2013年 日清食品ホールディングス株式会社の執行役員、CLO・ジェネラル・カウンセルに就任。現在に至ります。

本講演を理解するにはまず「ジェネラル・カウンセルとはなにか」を頭に入れる必要があります。本間氏が考えるジェネラル・カウンセル像について、冒頭にプレゼンテーションいただきました。

本間氏が考えるジェネラル・カウンセル、3つのキーファクター

本間正浩氏(以下、本間氏):
ジェネラル・カウンセルであることには次の3つを備えていることが前提です。

  1. 法務部門の責任者であること
  2. 法務のプロフェッショナルであること
  3. 経営の最高幹部であること

1の「法務部門の責任者であること」は説明不要ですね。法務部門を統括し、責任を背負う立場であることが当然のこととして求められます。

次に2の「プロフェッショナルであること」。ここでは「弁護士」資格の有無が問題なのではなく「プロフェッショナル」であることが重要で、その意味は2つあります。

プロフェッショナルであることの要素のひとつは「専門技能」です。当然のことながら高い専門技能を持っていることが求められます。私がどうかという議論はありますが、建前としては法律事務所のシニアパートナーと同等、もしくはそれを凌駕するだけの専門性を持っていることが重要だろうと思います。

そしてもうひとつは、プロフェッショナルとしての行動規範・職業倫理に基づいて行動を自ら自律する立場であること。私の見解に異論があることは百も承知ですが、それをあえて申し上げますと、「私は法律のプロフェッショナルであって、たまたまいまのポジションにあって、日清食品のためにサービスを提供している」と思えるかどうか。

○○会社の法務部員であるということから出発するのではなく、あるいは会社員がたまたま弁護士バッジをつけているということではなくまず「プロフェッショナル」というアイデンティティがあるかどうかがキモだと思っています。

「経営の最高幹部であるということ」について

本間氏:
ACC(アソシエーション・コーポレート・カウンセル)という世界最大級の企業内弁護士の団体が行った調査結果で、2021年の段階で「ジェネラル・カウンセルの上司は誰か?」という質問に対し、合計して80%が「CEOあるいはCOOである」と答えています。

次にやや古いのですが、2001年の調査で、アメリカの主要企業のCEOに「貴社のジェネラル・カウンセルはどれだけ偉いのか」という調査をした結果ですが、アンケートに答えたCEOの91%が「自社のジェネラル・カウンセルはトップ10以内だ」と答えています。さらに55%という過半数のCEOが5位以内。19%が3位以内。自分がいて、おそらくCFOかCOOがいてCLOがいる。それくらい高位の立場であって権威も高いということです。

ジェネラル・カウンセルとは、まさに経営の最高幹部そのものであることが分かります。これだけの権威を持っている人が日本にどれだけいるのか私はよくわかりませんが、そういうことです。ここまでいくと、私も外れますね。

ジェネラル・カウンセルはなにをしているのか?

ジェネラル・カウンセルが普段どのような仕事をしているのか、「なにをしてないのか?」から考えたほうが早いかもしれません。普段の業務において手掛けていない仕事としては以下です。本当に重大なものでは別ですが。

  • 契約書のレビュー
  • 法律調査
  • 法律メモを作成する

これら、法務パーソンの日常業務と考えられている仕事は行っていません。

それではなにをしているかというと、

  1. 法務として問題、課題を整理していくこと
  2. 部下の法務パーソンが正しくissueを取り上げているのかチェックすること
  3. 他部署と折衝し部門間調整を行うこと
  4. 人と人とを適切につなげ、ビジネスや折衝を前進させること

という4つです。

私独自の役割として大きなファクターはやはり「issueを見つけ出して取り上げていくこと」かと考えています。もちろん、自分の部下やビジネス部門、社長から、いろいろな形で会議に呼ばれて話を聞くわけです。そのなかで、「リーガルとして考えなければならないこと、問題、課題をどう整理をしていくか」が重要な仕事のひとつです

さまざまな会議の中で話される議題の中から、法務パーソンとして考えなければならないことを整理し、適切に解決へと進めていくことがジェネラル・カウンセルの業務の一つです。他には、法務の責任者として部下の業務を管理することも大切な業務です。

私の部下が一日ずっとビジネス部門と仕事をしておし、そのメールが滝のように私のパソコンを通り過ぎていきます。それを見ながら「本当にしっかりとしたissueを取り上げているのかどうか」を確認します。

「これ本当に見たの?これについてこういう議論をしているけど、こっちの方を見ないといけないんじゃないの?」といった指摘をして、「必要であればこれを解決するためにはこの部門のこの人と話をしなければならないから、私がつなぐので話をしてくれ」という形で部下の仕事を整理するのが仕事です。

 往々にしてあるのは、私は執行役員という立場で経営会議などの高次なミーティングに参加し、部下はそれぞれ自分の守備範囲を持っているわけですが、部下が自分の守備範囲のなかで持ってきたissueについて報告を受ける際に、その部下が直接関与していなかったもの、あるいは他のところで聞いてきた情報からすると、「あなたの守備範囲ではこうだろうけれども、この視点から見ると会社ではこういう動きがあって、この視点から見るとこういう角度からものを見るべきではないのか」と指摘することが多いんですね。

このような形で仕事を見つけ出していくので、業務はかなり断片的になります。じっくり1時間腕を組んでものを考える時間はなくて、issueを拾い出して部下に任せてやってもらうという仕事の仕方が中心になっています

つまり、経営陣や他部門、部下から多くの情報が私のもとには届きます。これらの情報を適切に処理し、ビジネスを前進させるのも重要な仕事のひとつです。

もう一つ重要なのは「出口」です。毎日、部下からいろいろな報告が上がってきます。幸いにしてしっかりとしたスタッフが集まっているので大抵のことは自分で解決できるのですが、たまに「こういうところで問題なんですけれども、ビジネス側はこう言っていて雪隠詰めを食らっています」ということがあると、「この人はたしかにそう言うかもしれないけれども、この部門のこの人は話を聞いてくれるはずだし、力も持っているので、彼に相談してごらん」とかという形でさばきをします。時には「オレが話してくるから」と自分で引き受けたりします。

そういう形で必要な情報、人と部下、それにビジネス部門をつなぎながら、最終的には法務として正しい方向にコトを進めてもらう。関係者の同意を取り付けて、法務が現実的にやらなければならないことをやってもらい、やってはいけないことを止める。そういう結果を出していくことに神経とエネルギーを使っています。

これがリーガルの仕事なのか?という考えもあるのですが、現実の問題としてはそういう仕事でほぼ1日使っています。

法務が「どれでもいい」と言うことは、すべての責任を背負うことと同じ

山本:
ジェネラル・カウンセルの議論にあたっての前提について詳しくお話いただき、ありがとうございました。

ここからが本日の一番のポイントなのですが、先日本間先生にご登壇いただいたセミナー「法務の責任者からジェネラル・カウンセルという道のり」で、ジェネラル・カウンセルになるためには「現状からの延長線上ではなく質的な転換が必要」というお話をいただきました。

法律の実務能力がついた中堅法務から、ジェネラル・カウンセルへと至る道のりについて、深堀りしてお伺いしたいと思います。

本間氏:
先ほどジェネラル・カウンセルの概念、定義を話しましたが、やはり「ジェネラル・カウンセルは会社の経営陣である」というところが重要なのかなと思います。

ここからは具体的な肩書ということではなく、内実としての「概念」を話しているとご理解いただきたいのですが、法務の責任者、たとえば法務部長における責任というのは「正しい法律解釈をすること」です。正しく法律文書を作るとか、法務を正しく動かすということが責任なんだろうなと思います。これがジェネラル・カウンセルになると、さきほど入口と出口という話をしましたが、「結果に責任を持つこと」がもっとも重要になります。

自分は法務部長だけれども会社を動かしているし、動かしている過程に積極的に関与しているという方もいらっしゃると思います。そういう方は、私が説明した定義としてのジェネラル・カウンセルに近づいていると思っています。

逆に、CLOという肩書を持っていても、「法律はこうです、あとは社長がお決めください」という仕事しかしていなければ、私の定義するところの、あるいはグローバルで考えられているジェネラル・カウンセルではないと思っています。

現実の結果にどこまでコミットしているのか、という点が、私自身の経験においてですがジェネラル・カウンセルかそうでないかを分ける境目になっています。

しかし、日系・外資系も含めて他社の状況を網羅的に分析したわけではないため、私の印象論でしかありませんが、多くの企業の法務パーソンは、非常に優れた法律家だけれども「法律はこうですよ」で終わっている方、またはそこまでしか法務責任者にもとめていない会社が多いのではないか、という印象を持っています。

山本:
それは、法務責任者が法務としてのアドバイスをして、あとは事業部なり経営陣に任せましたと言ってしまっているのか、経営陣や事業部がそのあとどう動くかまでを法務の責任だと思えるかどうか、という違いでしょうか?

本間:
おっしゃるとおりです。ただ、ひとつ重要なこととしては、「だからといってすべてを法務がコントロールする必要があるわけではない」ということです。

ときどき愚痴を聞くのですが、ビジネス判断が重いissueにおいて、ビジネスサイドがやりたいことを承認させるために、あるいはやりたくないことを法務に言わせるために、法務の力を借りる、というシーンがあります。そこで仮に法務がOKと言って会社が動いたところで、それは法務が責任を果たしたとは言えません。

最終的には会社の意思決定のバランスやダイナミズムのなかで決めることではありますが、必ずしも100%法務が決めなければならないということではないし、決める必要もないし、あるいは決めてはいけないこともあるので、そこは注意が必要です。

「この件は本来ビジネスサイドで決めることだ、ビジネスサイドが決めるべきことなんだからあなたが責任をとって決めなさい」と回答することもあります。でも、ビジネスサイドとしては自分が言いたくないから「本間さん言ってよ」というのは顔に書いてあるわけですよ(笑)。ですが、それは私が言うべきことじゃない、あなたの責任だと。

もう一つ重要なのは、仮にABCDと4つの選択肢があるとします。「どれを取るかは皆さんがお決めください」と法務が言ったとき、その結果について法務は責任を負わなければなりません。「ABCDすべての選択肢について法務はOKと言ったと思え」と私は言っています。

ABCDという選択肢があるということは、少なくとも法務的にはリスクが取れます、OKですと言ったという責任意識を持って仕事をしなさいと言っていますし、私自身もそのつもりでいます。そこを勘違いしている方がときどきいるんですよね。

山本:
判断した事業部の責任にはならない、ということですね。

本間:
やってはいけないことは、体を張っても止めなければいけません。法務がどれでもいいと言ったということは、すべてについてOKといったということとイコールだと私は思っています。

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ビジネスサイドの人間に、法務用語を使わずに説明できるか?

山本:
次にお伺いしたいのが、実務能力がついて中堅法務からジェネラル・カウンセルに質的に変わるに際して、例えば本間先生は法律以外にどのような勉強をしていたのか、どのような職種とコミュニケーションを取ることが多くなったのでしょうか?

本間:
私自身としては中堅からジェネラル・カウンセルに変化する際、壁には当たっていないんですよね。

といいますのも、私のキャリアの最初の10年間は法律事務所にいまして、その次がGEでしかもいきなりジェネラル・カウンセルだったんですね。当時のGEにはベン・ハイネマンという伝説的なジェネラル・カウンセルがいたのですが、彼のもとで作った法務のモデルがあって、私はその鋳型に叩き込まれたんです。つまり、はじめからジェネラル・カウンセルはこういうものだ。こうあらねばならないと強制されたものであって、自覚的な選択ではなかったんです。

これは私の世代、弁護士の修習期でいうと40期のはじめからその上の世代で、特に外資系で活躍しているジェネラル・カウンセルの方々は、皆さんほぼ同様の経緯をたどっているのではないかと思います。法律家としてある程度できあがってから外資系企業に入り、外資系企業の中でジェネラル・カウンセルはこういうものだと教えられてきた、という経緯ですね。

最近よく私たちの世代が「企業内弁護士のパイオニア」と言われるのですが、私は必ずしもそうではないと思っています。私たちはパイオニアではなく前世代だと。自分自身の力で「企業内弁護士とはなにか」というスタイルを作っていったのは、修習期でいうと50期台半ばの人たちではないかと思っています。

そして現在はさらに世代が進んでいって、法務として会社に対し責任を果たそうとしている方々こそが日本の企業内弁護士のパイオニアであって、私はその前世代だと捉えています。

では、私がGEでどのようなトレーニングを受けたかについてですが、そもそも「こうなりたいために、ここから飛躍するために、こうしよう」という経験があまりないんです。ですがあえて言えば、ビジネスを一所懸命理解しようとしました。

私の経歴として、保険、銀行、金融、コンピューターと様々な業界で法務をやってきたわけですが、そのなかで常に「ビジネスがどう動いているか」に関心を持ち続けて勉強してきました。そもそもGE時代に「法務は結果に責任を持つんだ」と叩き込まれていますので、疑問があれば質問するし、議論してみて「変わったやつだけれども弁護士のくせにいろいろなことを考えるんだな」と周囲に思われてきたことで、自分の発想なり考え方をインタラクティブに磨いてこられた、ということかと思います。

GEに入ったときの社長はアメリカ人でしたが、彼が私の入社当時に言ったことが、「お前は10年間弁護士をやってきて法律家としてはできあがっているだろう。ただ、保険会社に入るにあたって保険のことは何も知らないだろう。それがオレにとっての価値なんだ」と言ったんですね。

「自分たち保険のプロフェッショナルが見ている目というのはもしかするとバイアスが掛かっているかもしれない、なので、インテリジェントのある、かつ物を知らないお前の目で改めてこの会社のことを見てほしい」と言われたんです。

そして言葉通り、日々の業務の中でしょっちゅう「今日、お前は何を見つけた?」「どんな問題があるんだ」と聞かれました。「誰もお前が何でも知っているなんて思っていないんだから遠慮するな。分からないことがあったら何でも質問しろ」と。そういう日々の中で切磋琢磨していったのが現実です。

当時も机の上で勉強するべきだったのでしょうけれども、その時間はありませんでした。経済学や一般的なビジネス講座を勉強するべきでしたし、GEにはそういう研修コースもあって参加したこともありました。財務諸表の見方などは役に立ちましたが、ファイナンス的には保険は複雑な世界なので、日々の業務の中で同僚たちに教えを乞うて勉強していきました。同僚たちもよく付き合ってくれたなと思います。

山本:
とても理解のある職場環境だったということですね。

追加のご質問になりますが、たとえば中堅法務として法律の実務を一定以上積まれた法務パーソンがいるとします。その方がマインドセットを切り替えるための訓練方法や、ジェネラル・カウンセルになりたいという方に対して、本間先生はどのようにアドバイスされますか?

本間:
会社ごとに法務のカルチャーは異なりますので一概に言えないですし、下手に社内で悪目立ちしてしまい出る杭を打たれても仕方がないので上手にやらないといけないという前提の上でお話しますと、やはり「ビジネスサイドの人たちとビジネスの議論をすること」が重要でしょうね。

ビジネスサイドの方々はなぜそういう行動をするのだろう?と、ビジネス側の思考ロジックの理解から出発することが重要です。ビジネスサイドから法務への相談内容について、これをなぜやる必要があるのかを深く理解し、その行動をサポートするための法務であるという考え方です。

言い換えますと、ビジネスの枠組みは法律ではなくビジネスであるべきで、そのビジネスの内容を法律的にどう評価できるのかという発想で考えながら、ビジネスサイドの方たちと話をしていくことが重要なのかなと思います。

これはヒントになるか分からないのですが、「法律用語を使わずに、自分の考えについてビジネスサイドの方と話ができるかどうか」は、良い訓練になります。法律用語を使わずに法律の考え方の概略をビジネスサイドに理解してもらえるか分かってもらえるかと言い替えてもいいでしょう。

スモールビクトリーを重ね、社内に下地を作っていく

山本:
ありがとうございました。次のテーマについてのご質問です。

中堅法務の方がジェネラル・カウンセルを目指そうと考えたとき、ジェネラル・カウンセルの制度やポジションがない企業の場合には、社内に新しいポジションを作ってもらう必要があります。そうしたチャレンジをしようとしている、という声も最近よく耳にするようになってきました。

ポジションを作ってくださいという提案は、具体的にどのように進めるのが良いのでしょうか?

本間:
似たような相談を受けることがあるのですが、難しいんですよね。

つまるところ、社長あるいは経営陣がそのポジションに必要性を感じてくれているかどうか、ということだと思うんですね。

具体例は当然名前を出せませんが、会社が法務機能を強化するきっかけは、不祥事や失敗があった後というのが案外多いんですよね。不祥事が起きてはじめて、法務を強化しなければならないと認識するわけです。

ここで私の話を聞いておられるかたの会社は、そのような生き死にの問題がない幸運な会社だと思いますが、それを想定して話をしますと、明日すぐにジェネラル・カウンセルのポジションができると思ったらダメなんですよね。ジェネラル・カウンセルのポジションの地位の高さを考えたら、その設置は社長をはじめとするトップマネジメントの判断になります。しかし、彼らを説得するのは大変です。彼ら自身、それがどういうものか、経験として持っていないんですから。

そうなると、現実の問題として。私は「スモールビクトリー」という言葉をよく使うんですけれど、小さなこともいいから日常業務のなかでいままでの法務とは違った形で仕事をして周囲に認めてもらう、それをひとつずつ積み重ねていく。

ジェネラル・カウンセルとしてのポジションが必要なんだと分かってもらう対象というのは、法務の上長かもしれないけれども、本当は、認めてもらわなければならないのは、ビジネスサイドの人たちなんですよね。社内で力を持っているのは彼らですから。

ビジネスサイドの人たちに、「彼はこういうことができるのか。ならば今度はこれをやらせてみよう」と思ってもらえるように、ボトムアップで実績を積み重ねていくことが、中堅の法務パーソンにできることなのではないかと思います。

もちろん、制度論として「ジェネラル・カウンセルが必要です」とプレゼンテーションするのは重要だし、近道かもしれませんが、それができない前提で考えると、新たに部署を作るような権限がないなら制度は作れないんですよね。ならば自分が今できることをやるしかない。

若い人たちと話をしていて「こう動くべきだ、法務はこうあるべきだ」と話すと、「私には権限がないんです」と返ってくることが多いんです。でもね、僕はちょっと発想が違っていて、権限というのはもちろん仕事の基盤にはなりますが、まともな会社であれば権限は“結果”ではないかと思っています。

つまり、自分が仕事をする力、会社に影響を及ぼすことができる力、同僚を説得できる力、それらを示して「こいつはできるな」と思ってもらう。その結果として「あいつに権限を与えよう」となるので、「権限がないから」で終わってしまっていたら何もできないんです。これもやはりスモールビクトリーを積み重ねていくことなんじゃないかなと思います。

いま役員の適齢期って40代後半から50歳くらいですよね。中堅の法務パーソンは30代から40歳くらいでしょう。役員になるまであと10年から20年あるわけですよ。時間がかかるのは、しょうがないんですよ、そういうものなんだから。

山本:
法務の力や成果を細かく積み重ねて、他部署や経営陣に理解してもらう必要がある、ということですね。

本間:
そのとおりです。本当に会社を動かしているのはビジネスサイドなので、彼らに対して「あいつはこういうふうに役に立つな。なるほど質的に違うな。“法律的にはこうです”というような人間ではないな」と分かってもらえれば、それなりに大きな立場になりますよね。ですので、やれることをやるしかないんですよね。焦っても仕方がありませんから。

法務には、自身の成果を周囲に認識してもらうマーケティング的な発想も必要

山本:
ありがとうございました。重複することは前提なのですが次のご質問として、ジェネラル・カウンセルとして周囲に認めてもらうためにはどのような結果を積み上げなければならないのでしょうか?

先ほどおっしゃられていたように、ビジネスとしても経営としても法務がプラスになっている、ビジネスサイドのサポートになるようなところを、法務とわからないところを法務の力を使って後押しするイメージなんでしょうか?

本間:
むしろ逆だと思います。いかにそれが法務的に難しいことであったのか、それを法務としてどのようにブレークスルーして結果を出せたのか、それをいかにビジネスに認知させるかを考えなければなりません。これはマーケティングなんです。これは法務としての能力そのものとは全く別の話なのですね。「ちゃんと仕事をすれば認めてくれる」というものではない、というのが現実です。

語弊を恐れずに言うと「難しいけど成功した」と周囲に思ってもらうことです。難易度の高い法務相談を黙って対応して成功させても、その難しさは法務の専門性が故に、なかなかビジネスサイドの方たちは分かってくれないんです。「法的には難しいんだけどこうやって成功できるようにしました」と、上手に押し付けがましくなく見せられるかです。

もっとも、マーケティングだけ得意であっても仕方ないので、そもそも法務としての実力が伴わっていなければなりません。それが前提です。しかし、それに加えて自分のパフォーマンスをどうやって売り込むか。しかも押し付けがましく見せないように。

山本:
法務にもマーケティングの発想が必要、これは新しい視点でした。

多岐に渡り貴重なお話をいただき、ありがとうございました

本間:
ありがとうございました。