One Legal とは法務と事業を一体化するための法務管理メソッドです。

法務機能は法務部門のみが保有するものではなく、実態として各部門に分散保有されています。法務機能が持つポテンシャルを最大限に発揮することができれば、企業の競争力の強化に繋がっていきます。

本記事では、法務と事業を一体化するためのメソッドを解説しています。

執筆者

山本 俊
GVA法律事務所 代表弁護士
GVA TECH株式会社 代表取締役

弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にスタートアップとグローバル展開を支援するGVA法律事務所を設立、2022年ジュリナビ全国法律事務所ランキングで43位となる。2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。マターマネジメントシステム「GVA manage」、AI契約書レビュー支援クラウド「GVA assist」やオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」等のリーガルテックサービスの提供を通じ「法律とすべての活動の垣根をなくす」という企業理念の実現を目指す。

1. 法務機能について再考する

2018年から経済産業省が有識者と共に議論してまとめた報告書があります。

非常に有益な議論がなされており、改めて読み直しつつ、法務機能について再考察を加えようと思います。

1-1. 経産省が考える法務機能の定義

まずは議論の出発点として経産省が考える法務機能の定義を確認したいと思います。

経済産業>国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会>法務機能強化 実装ワーキンググループ>第6回 資料1_事務局提出資料より引用

このスライドでは法務機能を「社内外の関係者との対話を通じて、法令や契約のみならず、社会的評価等も意識した調整を行い、健全で持続的な価値を共創する機能」と定義しています。

経産省は、法務機能を法務部門に限らず、様々な関係者を巻き込んで実行していくニュアンスを取り込んでいます。法務機能は法務部門だけではないのはもちろん、事業部門を含む社内にもとどまらずに、関係者を広く巻き込んでいく機能であると言えます。

1-2. データからみる法務機能の分散

GVA TECH社で2022年12月に行ったアンケート結果があります。3,476人の法務部門外のポジションの方々に法務関連業務の対応状況についてアンケートをとりました。

法務部門外のポジションの方々も様々な法務関連業務を行っていることが、アンケート結果からみてとれます。

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経営・事業責任者ポジションの人の 1/4 は、実は週5時間以上を法務関連業務に割いています

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この傾向は従業員規模が大きくなるほど顕著で、従業員が1,000名以上の 経営・事業責任者は、約4割の人が週5時間以上を法務関連業務に費やしています。

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1-3. ソニー創業者の盛田昭夫氏

30年以上前のジュリストに以下のような文章があります。

「ビジネスのリスクを的確に分析し、説明し、トップに決断を求めるこの機能こそが企業法務の基本だと思う。だから私は最後の決断は必ず自分で下すが、法務の人のいうことをいつもよく聴くようにしている。」

経営者のみた法務戦略……盛田 昭夫(ジュリスト857号,1986年)より引用

日本を代表する企業ソニー(現ソニーグループ株式会社)の創業者である盛田昭夫氏の言葉から、専門的な部分については法務部門があくまでもスタート地点であるが、専門的な知識を噛み砕いて説明してもらい、経営者である氏が法務機能を経営に吸収している様子が伺えます。

1-4. 法務機能のあるべき姿

法務機能は法務部門だけが保有するものではなく、経営や事業部門をはじめとする全部門に分散して、各機能と不可分一体になって存在しています。経営や事業部門も法務に業務時間を割いていますし、法務のことを理解していないと、自らの機能も本質的には果たすことができません。

裏を返せば、法務部門も、経営や事業部門をはじめとする他部門についての理解がないと、法務機能を本質的に果たしていないことになります。

法務機能のあるべき姿は「法務と事業が一体となる」ことではないかと考えています。

そうすることにより、法務機能のポテンシャルを最大限に発揮することで、他部門の機能のポテンシャルも最大限に引き出されることになると考えます。

「法務と事業が一体となる」状態やその有益性は、企業の業種業態・フェーズや企業戦略によっても異なるため、具体例についても今後は追記をしていく予定です。

2. 法務案件の特徴と課題

あるべき姿に向かうため、現状とのギャップである課題を法務案件の特徴とデータによって整理していきます。

2-1. 法務案件の特徴

法務案件の特徴は大まかに3つあります。

2-2. 法務案件の課題

こちらもアンケート結果から確認します。
(2022年12月に法務部門771名、非法務部門2,476名の合計3,247名から集計)

まずは法務部門の契約書関連の課題について確認します。

法務部門の課題TOP5はこちらとなります。
1. 過去の案件を調査するのが手間
2. 依頼を受ける時の情報が少ない
3. 事業部等からの背景をヒアリングするのが手間
4. 締結済みの契約管理が手間
5. 電子契約と紙が併存していることが手間

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次に非法務部門の契約書関連の課題意識について確認します。

経営・事業責任者 TOP3はこちらとなります。
1. 過去の案件を調査するのが手間
2. 電子契約と紙が併存していることが手間
3. 契約審査自体の処理に時間がかかりすぎる

事業部門_営業 TOP3はこちらとなります。
1. 過去の案件を調査するのが手間
2. 契約締結の承認稟議の確認が手間
3. 電子契約と紙が併存していることが手間

事業部門_営業以外TOP3はこちらとなります。
1. 担当者によって回答の方針が変わり一貫性がない
2. 電子契約と紙が併存していることが手間
3. 過去の案件を調査するのが手間

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法務部門の契約書以外の法務案件の課題意識がこちらです。

法務部門の課題TOP5はこちらとなります。
1. 依頼を受ける時の情報が少ない、的を得ていない
2. 過去の回答内容や対応履歴の検索・調査に時間がかかる
3. 回答作成や調査に時間がかかりすぎる
4. 回答に自信が持てない
5. 事業部等が無理な期限設定や催促をしてくる

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非法務部門の契約書以外の法務案件の課題意識がこちらです。

経営・事業責任者 TOP3はこちらとなります。
1. 法務の回答作成や調査に時間がかかりすぎている
2. 回答までのリードタイムが長すぎる
3. 過去の回答内容や対応履歴の検索・調査に時間がかかる

事業部門_管理職 TOP3はこちらとなります。
1. 回答までのリードタイムが長すぎる
2. 過去の回答内容や対応履歴の検索・調査に時間がかかる
3. 法務の回答作成や調査に時間がかかりすぎている

事業部門_非管理職TOP3はこちらとなります。
1. 回答内容がよくわからない
2. 回答までのリードタイムが長すぎる
3. 担当者によって回答の方針が変わり、一貫性がない

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2-3. 法務案件における課題の構造

法務案件についての課題はこれらのデータに限らず、大きい課題から小さい課題まで様々なものが存在しています。さらに、法務案件の特性として "複数関係者が複数のドキュメントやコメントを様々な業務プロセスの中で生成する"ことから、課題が複合的に入り組み、解決しにくい構造になっています。

3. 課題解決のための幹

課題が一定整理されたことをうけ、ここからは現状からあるべき姿に近づくための道のりについて、検討を進めます。

3-1. 複合的な課題の根本は何か

データで確認したとおり、法務部門も非法務部門も様々な課題を抱えています。

法務機能に関わる課題は、部門を越えて複合的に入り組んでいるにもかかわらず、表層的な課題解決に飛びついて新たな課題を生み出してしまったり、部分最適的に課題を解決してしまい逆に残った課題の解決が難しくなったりしてしまう、ということが多々あります。

複合的な課題を根本的に解決するためには「ナレッジマネジメント」←「法務案件の集約」←「案件の受付管理」という一本の幹をしっかりと作ることが重要だと考えます。

特に回答が多かった「過去案件を調査するのが手間」という課題を解決するためには、ナレッジマネジメントの手法を活用することが効果的です。

ナレッジマネジメントとは「企業や社員の持つ知識・経験などを共有して、創造的な経営を実践すること」と一橋大学名誉教授・経営学者である野中郁次郎先生は定義しています。

3-2. ナレッジマネジメントの効果と課題

まずナレッジマネジメントの目的・効果について整理をします。

『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』(商事法務)によると、下記の6点を挙げています。
1. 業務の効率化
2. 生産性および質の向上、競争力の強化
3. リスクの低減
4. 人材育成
5. 職場環境に対する満足度の向上
6. 法的アドバイスに対する一貫性の担保

ナレッジマネジメントは、成功すると複合的な法務機能における課題が一挙に解決される、素晴らしい効果を生む概念です。

しかし、前述した法務案件の特徴が、法務機能のナレッジマネジメントの難易度を高めてしまっています。

法務案件の特徴から導き出される、ナレッジマネジメントにおける最大の課題は「法務案件の集積の難易度が高い」ということです。法務案件は、複数の関係者が様々な業務プロセスの中で関わり、案件の単位や形式も1つのドキュメントやコメントに集約されるものではないのです。

4. ナレッジマネジメントのための案件受付管理

法務案件のナレッジマネジメントを実現するために重要なのは、まず「法務案件の集約」と「案件受付管理」を表裏一体で実現することです。

4-1. 法務案件の集約が一丁目一番地

ナレッジマネジメントを行うに当たっては様々なステップがありますが、一丁目一番地は「法務案件の集約」です。法務案件の集約がなければ、ナレッジマネジメントで重要な「検索によるナレッジ活用」や「契約審査のプレイブックのような暗黙知の形式知化」などのステップに進むことができません。

『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』においても繰り返し述べられているように、法務案件の集約において最も大事な考え方は「情報の選別をさせない」ということです。

そうすると必然的に、法務案件に関する成果物やコメントが自動で蓄積されていくことがポイントになります。

4-2. 法務案件ナレッジ理想の型

理想ベースで考えるなら、法務案件を適切に活用するためには最終版の契約書等のドキュメントだけでは不十分であり、場合によっては複数の契約書のバージョン管理やそれらに紐付くコメント、参考資料や識別情報も含めた一種のパッケージとして集約されていることが非常に重要です。

また法務案件は契約書業務に限られるものではないため、一般的な法律相談やコンプライアンス関連の業務も含めて整理する必要があります。

特に強調しておきたい点は、事業部門が法務部門に "最終的にはどのような形で案件が着地したか" を共有することです。最終着地についての共通認識がないと、法務部門は誤った形で事業の進捗を認識してしまうため、今後の法務案件について誤った対応をしてしまう可能性が高くなりますし、事業部門への理解も進んでいきません。

法務案件ナレッジ 理想の型とは?

4-3. 案件集約に向けた案件受付管理の必須条件

① 事業部の業務プロセスへの配慮

法務部門は、事業部門をはじめとする会社の全部門から法務案件を受け付けて管理しなければならないことから、事業部門の業務プロセスに対しての配慮が必要になります。

ベストは事業部が日常的に活用しているツール(メールやチャット等)を使って法務案件の受付管理ができることです。

しかし、法務案件の集約や管理とのバランスから、フォームを活用する等の業務プロセスの微細な変更をどこまで全社として許容していくかは、組織内で議論の余地があります。

② ひとつの場所に集約

近年ではチャットツールや様々なSaaSツールの導入から、法務部門への依頼ルートが多様化していることがあります。法務案件の受付や管理の時点で一つの場所に集約することは、その先の検索の利便性を高めるためにも重要なことです。

4-4. プラスαの条件

③ 法務案件ナレッジ理想の型に近づけた集積

4-2のような理想の型に近づけるには、業務プロセスやツールの問題、情報の集積にどれくらいの工数をかけるかに依存するため、全ての会社が理想の型を実現するのは難しいといえます。

会社の状況によりますが、できる限り理想の型に近づけることが、ナレッジマネジメントのための案件受付管理の実現にはプラスになります。

④ 誰がどの案件をどのステータスで対応しているかがわかる

法務案件の集約の流れの中でも、いわゆる案件管理は重要です。

法務部門は全部門から法務案件の依頼を受け付けるため、法務担当者が複数在籍している場合、各人が抱えている案件量や対応できる案件の難易度に応じて割り振りをする必要があります。場合によっては社内で質的もしくは量的に耐えられないことから、外部の法律事務所に依頼するという判断をしなければなりません。

案件管理をするにあたって最も重要なのは「対応期限」です。

契約書であれば、取引先と締結する期日があり、新規事業に関する法律相談であれば新規事業の開始の期日等があります。

可能な限り事業部の要望に合わせて対応するのがベストです。しかし、法務部門は案件の混み具合や案件の難易度によっては、確実に決まった期日で対応することが難しい場面がどうしても出てきてしまいます。

そこで、原則的な回答期限と共に重要なのは、回答期限についての変更があれば即座に共有する仕組みの構築です。

その一歩先のステップとして、どの法務担当がどの法務案件をどのようなステータスで対応しているかを把握すると、案件の割り振りの効率性や、事業部を含めて誰がボールを持っているかもわかることから、無駄なリードタイムを発生させません。

4-5. 費用対効果

ナレッジマネジメントのための案件管理を実現するために費用の面を無視すれば、案件の受付をバラバラのツールで行っても法務部門が工数を割いて整理したり、案件の割り振りについても担当をつけて割り振ったり期限管理をすることは可能です。

法務案件の集約をどのレベルで行うか、事業部の業務プロセスとのバランスをどのレベルでとるか、そのためにどれくらいの工数が許容できるか等、何を優先するかを決めて実行していくのが良いでしょう。

5.案件受付管理の実装メソッド

5-1. 既存のツールを活用したもの

案件受付管理を実装するためのいくつかの具体例を紹介します。

100社以上の会社にヒアリングした結果、法務案件の受付管理は6つの手法に分類されます。

  1. フォーム(forms、Googleform等)
  2. メール(Outlook、Gmail等)
  3. チャット(Slack、teams、チャットワーク等)
  4. プロジェクト管理ツール(Backlog、Jira、Notion、Kintone等)
  5. ワークフローツール(イントラマート、アジャイルワークス等様々)
  6. 社内システム(SharePoint等も含む)

法務案件の受付管理メソッド6選とは?

5-2. ナレッジマネジメントのための案件受付管理に特化した「GVA manage」

「GVA manage」は、法務部門のナレッジマネジメントと案件受付管理を、事業部の業務プロセスを変更せずに実現することを目指すマターマネジメントシステムです。

既存ツールのメリットを活かしたままデメリットを解消し、今まで法務部門も事業部門も実現できなかった法務機能のポテンシャルを最大限に発揮するために、「法務と事業を一体化する」ことを実現します。

6. One Legal今後の展望

法務と事業を一体化することを目指して考察しました。

現在ではまだ骨子に過ぎませんが、今後はさらに進んだメソッドに進化させていきます。

複合的な課題を根本的に解決するためのナレッジマネジメントの一丁目一番地としては「法務案件の集約」を実現することが大前提のため、まずはこの点についての記載を中心にしました。

「法務案件の集約」後の、検索を前提としたナレッジ活用や、契約審査のためのプレイブック作成等による暗黙知の形式知化、法務部門と事業部門の適切なコミュニケーション、事業部門の法務ナレッジマネジメント等についての記述も加えていく予定です。

参考文献・記事

  • 「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~」(2019年 経産省)
  • 「ジュリスト1986年4月1日号No.857」(有斐閣)
  • 「知識創造企業」(1996年 東洋経済新聞社)
  • 「企業法務におけるナレッジ・マネジメント」(2021年 商事法務)
  • 「リーガルオペレーション革命」(2021年 商事法務)
  • 「会社法務部 実態調査の分析報告」(2022年 商事法務)

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