2023年2月21日(火)、「ビジネス法務」を刊行する株式会社中央経済社、管理部門向けメディア「Manegy」を運営する株式会社MS-Japan、リーガルテックサービス「GVA manage・GVA assist・GVA 法人登記」を提供するGVA TECH株式会社の3社共催で、「すごい法務EXPO'23」が開催されました。

当日は、平日10時から17時までという長時間の催しであったにもかかわらず、599名の先進的な法務パーソンが参加。大盛況となりました。

本イベントでは、日本を代表するジェネラル・カウンセルからベンチャー企業で経営者に寄り添う法務として活躍している方まで、企業法務として最先端を走る5名の方を迎え、法務パーソンの現在地や未来について熱の入った講演が行われました。

法務パーソンである前に商社パーソンであれ
(丸紅株式会社 有泉浩一氏)

「すごい法務EXPO'23」は、従業員数4,379名、日本はもとより海外含めて132拠点(※いずれも2022年3月31日現在)を擁する大手総合商社「丸紅株式会社」の執行役員・法務部長 ニューヨーク州弁護士 有泉浩一氏を講師に迎え、「丸紅法務が大事にしているマインドと体制」と題した講演から幕を開けました。

「すごい法務EXPO' 23」開催レポート
法務パーソンである前に商社パーソンであれ
(丸紅株式会社 有泉 浩一氏)

数千人規模の社員を抱える企業の法務部門ではどのような業務が行われているのか、どのようにDXを推進しているのか、どのような人材が求められているのか、などが詳しく語られました。

有泉氏は、丸紅の法務パーソンに求められる資質として、次のような要素を挙げています。

有泉氏:
「企業法務の世界では昨今、存在意義や役割が議論されています。私が考えるに、丸紅法務部が目指すべき人材像という観点から言うと、我々は企業価値を上げていくために稼がなければならないわけです。企業価値の向上に関与するという意味で、丸紅法務部のメンバーは法務パーソンである以上に商社パーソンでなければならないと思います。

 具体的には、取れるリスクはどんどん適正に取るべく営業部にアドバイスできる、そういう事ができる人材であることが求められるだろうと思います。そういう商社パーソンであることが第一でしょう。

 次に必要なのはコミュニケーション力ですね。具体的には、現場に入っていく力、聞く力、それから間をつなぐ力、チームワークを生み出せる力。商社パーソンであるということは、受身の姿勢ではなく法務も積極的に営業部と協働して、営業部をリードしていくくらいの力が必要です。

 ですから、法務と言っても当社では弁護士資格については重視していません。もちろんあったほうが望ましいとは思いますが、できる人材、できる商社パーソンであれば資格は問いません。必要なのは商社パーソンであることとコミュニケーション力であると常々語っています」

この他、丸紅法務部の体制や、有泉氏が考える「パートナー&ガーディアン論」など、有泉氏のご講演に参加者は大いに刺激を受けたようです。

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法務から経営陣に上げる報告を数値化しよう
(株式会社刀 尾崎美和氏)

午前中の2nd sessionは、株式会社刀のシニア エグゼクティブ・ディレクター リーガル&ライセンス 尾﨑 美和氏を講師に迎え、「経営判断を支える法務と経営とのコミュニケーションのあり方」と題して行われました。

「すごい法務EXPO' 23」開催レポート
法務から経営陣に上げる報告を数値化しよう
(株式会社刀 尾崎美和氏)

株式会社刀は2017年に創業したベンチャー企業。USJをV字回復させたことで有名な森岡毅氏が代表を務める会社です。ベンチャー企業ということもあり、経営陣と法務部との距離は近く、法務が経営判断に密接に関わっていくことになります。

経営陣とそのような関係のなかで、尾崎氏が法務パーソンとしてどのようなことを考え、どのように動いているのか、語られました。

講師の尾崎氏は、弁護士資格を取得後、西村あさひ法律事務所に勤務。弁護士として10年間活動し、その中でKDDIに出向し、また、法律事務所退職後はタカラトミーといった大手企業に転職。その後、現職に至っています。法律事務所・大手企業を経てベンチャーで法務として活躍している尾崎氏は、経営陣に法務リスクを説明する際に「できるだけ数値化するように心がけている」と語っています。そうすることで経営陣は正しい判断を下しやすくなり、その結果、会社の成長に寄与することができるという考えからです。

法務の仕事を数値化するとは一体どのようなことなのでしょうか。

尾崎氏:
「あるリスクの発生する可能性の程度について、法的な文章だと「可能性が高い」「低い」「必ずしも高くない」といった表現をすることが多いかと思います。そういう可能性の程度に関して、法務に関わっている人とのやり取りでは違和感がなくても、経営陣は「それって何%程度の話なの?」と知りたいわけです。

 ですので、たとえば外部の法律事務所から「可能性は必ずしも高くない」といった見解をもらったときには「それって何%くらいの話ですか?」と法律事務所の弁護士と議論をして、だいたいこれくらいかなと数値のイメージを持ってから経営陣と話す、というところは工夫をしています。

 企業で働くようになってから、「それって何%の話ですか?」と法律事務所と話すことでリスクに対する議論や理解が深まることが分かりました。法律事務所の弁護士は、前提となる情報が会社内の人間よりも当然少ないので、どうしても幅を持った表現をせざるを得ないんだと思います。

 そこで「何%だと思います?」と聞いでみると「こういう前提だとこれくらいになるし、このケースではこれくらいかもしれない」と、弁護士からの回答に分岐が生まれたり、提供する情報が不足していることが分かったり、新しい情報があればもっとクリアに可能性の程度が明らかになったりと、そういう議論の深まり方をすることがあるので、意識してやってみると良いかと思います」

リスクを数値化することで、経営陣が状況を把握しやすくなると同時に、外部の法律事務所とのコミュニケーションもより深まることが分かります。大手法律事務所、大企業、ベンチャー企業。それぞれの視点から法務を見てきた尾崎氏の講演は、多くの参加者の参考になったようです。

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ジェネラル・カウンセルに必要な3つのキーファクター
(日清食品ホールディングス株式会社 本間正浩氏)

13時10分からは、「中堅法務からジェネラル・カウンセルへの道のり」と題したセミナーが開かれました。ご登壇は日清食品ホールディングス株式会社 CLO・執行役員 ジェネラル・カウンセルを務める本間 正浩氏。本間氏は、正しい意味での「CLO」「ジェネラル・カウンセル」の役割を担っている法務パーソンとして知られています。

「すごい法務EXPO' 23」開催レポート
ジェネラル・カウンセルに必要な3つのキーファクター
(日清食品ホールディングス株式会社 本間正浩氏)

本間氏からは、ジェネラル・カウンセルとはなにか、ジェネラル・カウンセルに求められる資質にはどのようなものがあるのか、といったことから、法務パーソンがジェネラル・カウンセルへとシフトチェンジするために日常業務の上で気をつけなければならない点について、講演が行われました。

まず、本間氏は、肩書きだけではない真のジェネラル・カウンセルとなるためには、次の3つのポイントを押さえなければならないと語っています。

本間氏が考えるジェネラル・カウンセル、3つのキーファクター

  1. 法務部門の責任者であること
  2. 法務のプロフェッショナルであること
  3. 経営の最高幹部であること

責任者であることは当然として、弁護士資格の有無に関わらずプロフェッショナルであるというスキルやアイデンティティがあるかどうか、そして経営の最高幹部であることがジェネラル・カウンセルとして必要な要件だと本間氏は定義されています。

特に3について、アメリカで行われた調査を元に本間氏は次のように語っています。

本間氏:
「ACC(アソシエーション・コーポレート・カウンセル)という世界最大級の企業内弁護士の団体が行った調査結果なのですが、2021年の段階で「ジェネラル・カウンセルの上司は誰か?」という質問に対し、合計して80%が「CEOあるいはCOOである」と答えています。なかんずくCEOと答えたのが78%です。

 次にやや古いのですが、2001年の調査で、アメリカの主要企業のCEOに「貴社のジェネラル・カウンセルはどれだけ偉いのか」という調査をした結果ですが、アンケートに答えたCEOの91%が「自社のジェネラル・カウンセルはトップ10以内だ」と答えています。さらに55%という過半数のCEOが5位以内。19%が3位以内。

 自分がいて、おそらくCFOかCOOがいてCLOがいる。それくらい高位の立場であって権威も高いということです。本場アメリカのジェネラル・カウンセルは経営の最高幹部のひとりとして認知されていることが分かります。

 一方、日本では執行役員に法務部出身の人材がいない企業も多く、まだジェネラル・カウンセルの企業に対する有効性の議論が進んでいない印象です。これは同時に、法務パーソンのキャリアとしては法務部長が最高位となってしまうことも示しており、キャリアパスにも影響を及ぼしています」

一定の経験を積んだ中堅法務パーソンが、現在はまだ日本に馴染みの少ないジェネラル・カウンセルへと成長していくためにはどうすればよいのか。本間氏から送られたメッセージは具体的で、今日から実践できる内容だと、参加者から大きな反響がありました。

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効率化を進めるにはまず機能全体を見渡した課題整理を
(KPMGコンサルティング株式会社 水戸貴之氏)

午後2つ目のご講演「法務・コンプライアンス組織の問題・課題と高度化・効率化への道のり」は、前3つの講演とは趣を変えて、コンサルタントから法務部門が抱える課題の分析と、高度化・効率化を推進するために必要な考え方と進め方についての内容となりました。

登壇したのはKPMGコンサルティング株式会社 Sustainability Transformation ASSOCIATE PARTNERの水戸貴之氏。コンサルティング会社だから提供できる、細かい現状分析を行うためのデータと、その分析結果を元にした解説に、参加者一同大いに盛り上がりました。

「すごい法務EXPO' 23」開催レポート
効率化を進めるにはまず機能全体を見渡した課題整理を
(KPMGコンサルティング株式会社 水戸貴之氏)

水戸氏:
「法務パーソンにかかる業務負荷は日ごとに増えています。従来の法務業務に加えて、昨今ではESG/SDGsといった時代の潮流に合わせた新たな業務や、経済安全保障に関する業務なども増えています。その一方で、予算やそもそもの法務人材不足な現状において、新たに法務人材を増やしていくことが困難ななか、法務部門の業務はできるだけ高度化・効率化を進めていかなければ立ち行かなくなっていきつつあります。

 高度化、効率化を進めるにあたって大切なのは「法務・コンプライアンス機能全体を見渡したうえで課題整理を行い、検討を進めること」ですが、法務機能全体を見渡すと「契約審査をやっている」「法律相談をやっている」「訴訟対応やコーポレート法務もやっている」と、個別に業務の切り分けが行われ、それぞれに個別最適化されているケースも多いです。

 ですが、それらはあくまでも法務の組織運営をやっていくうえでの、プロセスに関する部分だけの話をしているに過ぎません。たとえば、契約審査という業務を考えていくうえでも、何のためにやっているのかという認識が揃っていないと、過剰なリソースの投資になりかねません。

 契約審査の観点でも、かえって過剰なものになってしまうと、営業や他部署から「法務に相談するとうるさいし進まないから話したくない」という事態になりかねません。「自分たちは何のためにこの業務をやっているのか」という根本部分を見つめたうえで各業務が設計されていないと、会社が機能していくうえで法務がムダなことを手掛けてしまう危険性があります。

 各業務の前提になるような戦略、つまり部門としてのミッションや使命を明確にして、やることとやらないことを決める。場合によっては契約審査においてもこういった領域のことはやらない、ここは事業部門に任せる、という考え方もミッションが明確になっていれば判断できます。まずは戦略・ミッションを明確にして、これを実現できるように業務のプロセスを設計していくことが大切です」

リーガルテックを導入すれば効率化が進むわけではありません。その前に、法務機能全体を見渡したうえで課題整理を行い、検討を行うことが重要とのこと。この指摘に、参加者の皆さんは大いに刺激を受けたようです。

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法律の知識を活用するにはまず信頼を集めることが大切
(Zホールディングス株式会社 妹尾正仁氏)

「すごい法務EXPO'23」を締めくくる講演は、Zホールディングス株式会社 執行役員 法務統括部長 グループ・リスクマネジメント統括部長の妹尾正仁氏にご登壇いただき、「ダイナミックな組織の変化に貢献する法務の取り組み」と題して行われました。

「すごい法務EXPO' 23」開催レポート
法律の知識を活用するにはまず信頼を集めることが大切
(Zホールディングス株式会社 妹尾正仁氏)

妹尾氏は弁護士資格取得後、森・濱田松本法律事務所に入所。弁護士として活動後、ヤフー株式会社に転職し、法務部ではなく経営企画や社会貢献事業などを手掛け、2019年から法務部門の責任者を務めています。

さまざまな経験を積んだのち、法務部門の責任者となった妹尾氏。幅広く積んだ経験が、現在の役割でどのように活かされているのでしょうか?

妹尾氏:
「法律事務所から事業会社に移りたての当時は、法務の経験を役立てる方法を間違えていたと思います。法律の知識があるからといって、それだけで何かが出来るわけではありません。むしろメンバーとの信頼関係が大切で、まず相手から信頼される人物であることが大事で、その人間が法律の知識を持っている、という順番が重要だったと今は考えています。

 最初、私は自分の法律の知識や経験を活かせると考えていましたが、そもそもヤフーには強力な法務部門があるため、転職してきた他部門の人間が法務の専門家のように振る舞うのは避けるべきだと気づきました。

 数ヶ月後、社内の方々と信頼関係を築いた上で、法律に関することを含めたさまざまな相談に対応し、部門間の業務を仲介する役割も担えるようになってきました。仲間のひとりとして認められて、はじめて法律知識を使う機会を得ることができた、それが最初の数年間でした」

法務の力を活かすためにはまず、他部署の同僚からの信頼を勝ち得ることが大事だったと反省を踏まえてお話しいただきました。現在、法務部門の責任者を務めている妹尾氏は、法務メンバーの評価方法についても詳しく解説しています。

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ブース出展いただいたリーガルテック企業様

すごい法務EXPO’23は、5名の方による講演の他、リーガルテックカンパニーによるブース出展・ピッチもありました。

「すごい法務EXPO' 23」開催レポート

ContractS株式会社様より、ContractS CLM

ContractS CLMは契約プロセスの最適化と一元管理をワンストップで実現する、契約ライフサイクルマネジメント(CLM)システムです。契約書作成・レビュー・承認・締結・更新・管理といった、契約にまつわる業務を集約し、契約業務の最適化につなげます。

株式会社LegalOn Technologies様より、LegalForce

LegalForceは、契約審査の品質向上と効率化を実現する「AI契約審査プラットフォーム」です。契約書に潜むリスクの洗い出しから、リサーチ・修正・案件管理までをワンストップでサポート。これまで人手と時間をかけるしかなかった契約業務をテクノロジーで支援することで、契約審査体制の強化を実現します。

株式会社リセ様より、LeCheck

LeCHECKは少人数法務を支援する、契約書AIレビュー支援クラウドです。月額4万円と業界最安値水準でご提供しております。すべての機能をご利用いただける無料トライアルも受け付けております。

AOSデータ株式会社様より、デジタルフォレンジック

不正の証拠となるデジタルデータの復旧、検出、調査、開示支援を行うフォレンジックや、膨大なデータから裁判や調査に必要な情報を揃え、電子証拠開示(eディスカバリー)を支援しております。また有事のみならず、平時からの対策として、メール監査・ログ監査やサイバーセキュリティソリューションもご提供しております。

まとめ

 日本を代表する法務パーソンを講師に迎え開催された「すごい法務EXPO' 23」。多くの方々にご参加いただきました。登壇者の講演から多くの示唆やヒントを得られたと、多くの参加者の方々から反響をいただきました。

今回参加できなかった方々は、アーカイブ動画をご視聴いただくか、次の機会にぜひご参加いただき、最先端の知識と示唆に富んだ講演の数々をお楽しみいただければと思います。

すごい法務EXPO' 23:アーカイブ動画を視聴する