企業が事業を行うにあたっては、単に利益を上げるだけでなく、法律や条例、社会的規範など幅広い規則を守ることが求められます。
コンプライアンスの重要性がますます高まるなかで、企業の法務部はどんな点に注意するべきなのでしょうか。法務部が直面することが多いコンプライアンスの課題や疑問点について説明しながら、法務部の役割について、この記事では解説していきたいと思います。

コンプライアンス対策とはどのようなものか

企業が不祥事を起こすたびに「コンプライアンス」という言葉が注目されることになります。しかし、用語としては浸透している一方で、コンプライアンスについて、法務部がどんな業務を担っているのかを、把握している人はそれほど多くないでしょう。

「コンプライアンス」は、直訳すると「法令遵守(順守)」。もともとは「法令を守ろう」という意味合いで使われていました。しかし、現在は、就業規則などの企業規範、モラルや道徳といった社会規範にまで、コンプライアンスで守るべき範囲が広がっています。そんななか、法務部は何に気をつけるべきなのか。まずは法務部が行うべき業務から説明しましょう。

法務部のメイン業務の1つが「契約取引法務」です。契約や取引において発生する様々な契約において、契約書を作成して審査していく仕事です。売買契約や秘密保持契約、業務委託契約など多岐にわたる契約について、法的な観点からチェックします。

そのほかに、株主総会や取締役会など、社内の機関や組織の運営について、法的に問題がないかどうかをチェックする「機関法務・組織法務」や、他社とのトラブルを社外の専門家と協力しながら解決する「紛争対応法務」などがあります。

そして、2000年代に産地偽装問題などの不祥事が相次いだことをきっかけに、重要視されるようになった「コンプライアンス」への対応を行うのも、法務の役割です。社内の秩序を維持し、企業の信頼性を高めるために、社内研修の実施やマニュアルの作成、場合によっては、相談窓口の設置などを行います。

企業がコンプライアンス体制を整えるべき理由

コンプライアンスは、仕事の現場からは「業務の進行を妨げる面倒なもの」というイメージを持たれがちです。しかし、コンプライアンス体制を整えることは、組織に様々なメリットをもたらします。一つずつ、解説していきたいと思います。

法令違反を予防する

コンプライアンスの整備を行うことで、企業が法令違反を犯すことを予防できます。利益を上げるために意図的に法令を無視するのは、いうまでもなくご法度ですが、「意図せずして法令を違反してしまった」場合でも、当然ペネルティは発生します。

法令の改正をきちんと把握したうえで、事業活動のなかで問題となる要素がないかどうか。法務部でチェックして指導することで、事前に法令違反を防ぐことができます。

企業価値を高める

コンプライアンスの違反が発覚すると、企業のイメージが大きく損なわれることがあります。そんな場面を報道などで、目の当たりにしたことがあることでしょう。事業活動を行っている限りは他人事ではなく、コンプライアンスの整備を怠れば、不祥事はどの企業でも起こり得ることです。

逆に言えば、コンプライアンスを整備すれば、消費者は安心してその企業の商品を購入でき、さらに社外の取引先も安心して取引することができます。特に、上場企業の場合は、コンプライアンスが行き届いているかどうかは、投資家が投資を判断するうえで重要なポイントになります。「コンプライアンス」にまつわるニュースはネガティブなものが多いために、見落としがちですが、積極的にコンプライアンスを整備することで、企業価値を向上させることができます。

職場の環境を改善する

コンプライアンスの体制を整えることは、パワハラなどの問題行動から、自社の社員を守ることにもつながります。不正行為を防止して職場の環境改善につながっていくという点でも、コンプライアンスを整備するメリットは大きいといえそうです。

優秀な人材の確保ができる

現在は多くの現場が人手不足に苦しめられていますが、コンプライアンスがしっかり整っている職場ならば、中途入社の人も安心です。パワハラなどの不正行為への目がどんどん厳しくなっているなかで、コンプライアンスへの意識が十分に行き届いた職場環境は、求職者にとって大きな魅力です。
また在職中の社員にとっても同じことがいえるため、コンプライアンスを整備することは、結果的に優秀な人材を確保することにつながっていきます。

法務部門とコンプライアンス部門との違い

法務部門とコンプライアンス部門は、似た役割を持つため、1つの部署で両方を兼ねることも少なくありません。法務部門とコンプライアンス部門では、どんな違いがあるのでしょうか。

法務部門の役割とは?

法務部門は、企業活動における契約や取引について、法律上のアドバイスを行っていきます。法令や規制の意味をきちんと理解したうえで、契約や取引について、法律上の問題点がないかどうかをレビューする必要があり、弁護士など法律の専門家が配置されることが多いです。
外部の弁護士と連携するにしても、法学部レベルの法律知識のある人の配置が望ましいとされています。

コンプライアンス部門の役割とは?

コンプライアンス部門の役割は、法令や規制に則って、業務を行うように社員を教育し、指導やサポートを行っていくことです。
具体的には、日常的なオペレーションを監視して、業務マニュアルの見直しや社内研修を行うのが、コンプライアンス部門の業務になります。法令の内容が理解できる程度の法律的な知識は必要となるほか、社内規則やビジネスのルールにも通じていることが求められます。

法務部門とコンプライアンス部門を分離するメリットとデメリット

企業によっては、法務部門とコンプライアンス部門を分離しているところもあります。別々にすることで、それぞれに特化した業務に集中でき、専門性を高めやすいというメリットがあります。

しかし、その一方で、法務部門とコンプライアンス部門を分離するデメリットとして、情報共有がスムーズにいかず、業務の効率が下がってしまうおそれがあります。

中小企業の場合は、小人数の法務部門で両方を兼ねているケースがほとんどだと思われます。多岐にわたり、かつ専門性の高い法務部の業務をいかに効率化するか。企業が抱える大きな課題の一つといえるでしょう。

法務部の業務を効率化して徹底したリスク管理を

法務部が担うコンプライアンスの業務について、解説しました。取引に関する契約書のレビューという法務部のメイン業務だけでも、あらゆる法律的な観点から問題点がないかをチェックしなければならないので、綿密かつ高度な業務内容となります。

それに加えて、社員教育などのコンプライアンス業務が加わってくるとなると、業務は煩雑化し、オーバーワークに陥りがちです。どのようにして法務部の業務を効率化しながら、リスク管理に貢献していくかは、どの企業も悩みの種だと思います。

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