法務コラム
スタートアップの知財戦略〜スタートアップ知財のスペシャリストが語る、成長を支える知財のポイント〜
投稿日:2025.05.16
1.事業と連動する知財戦略と経営者の役割
「いかに事業と距離を近く特許を出願するか、いかに事業と関連性を深めながら特許を出願するのか」
テック系スタートアップこそ、実は大きな落とし穴にはまっているかもしれません。
大谷先生、山本先生が揃って強調されたのは、「優れた技術に関する特許」と「事業の優位性を創りだす特許」は必ずしもイコールではないという現実です。
山本先生は、「エンジニアが『これは画期的だ!』という先端技術と、事業の競争優位性を確立し収益に貢献する特許の方向性は、時に大きく乖離することがある」と指摘されました。例えば、技術的に高度すぎると市場がまだその価値を理解できなかったり、あるいは他社が追随困難なためそもそも特許で守る実益が薄かったりするケースも。
ここで不可欠となるのが、経営層、事業を推進するトップ層による深い関与です。
よく陥りがちな失敗事例は、開発担当者、技術担当者のみが「新しいものができたので特許を取りたい」と相談にくるケース。
「どの市場で、どういった事業を行い、どの競合に対して、どのように優位性を築くために、この技術を権利化するのか」
この経営マターとして捉える視点が欠落したままでは、「使える」特許にはなりません。経営層らが事業の成長戦略、市場の動向、M&Aやアライアンスといった将来の選択肢までをも見据えて、知財戦略にコミットすることで、初めて「使える」特許が生まれます。
開発担当者・技術者任せ、専門家任せにせず、事業の羅針盤を握る経営層、事業を推進するトップ層が、知財戦略の「船頭」となることの重要性が、改めて浮き彫りになりました。
2.特許価値を高める「分割出願」の戦略的活用
大谷先生は「価値の高い特許の裏には、ほぼ100%分割出願の活用がある」と指摘されました。
山本先生が「分割出願は、最初に提出した特許出願(親出願)の“クローン”を作るようなもの」と分かりやすく解説された通り、親出願の記載内容という“設計図”の範囲内であれば、事業の進捗や競合他社の動きに合わせて、権利の内容を柔軟に調整した「子出願」や「孫出願」を戦略的に生み出すことができるのです。
例えば、最初の出願時には想定していなかった競合製品が登場したり、自社製品の仕様が変化したりした場合でも、分割出願を活用すれば、新たな状況に合わせて権利範囲を最適化し、他社の追随を効果的に牽制できます。
重要なのは、最初の出願(親出願)の明細書に、将来の事業展開の可能性や技術的なバリエーションを、できる限り豊富に広く盛り込んでおくこと。
「最初の出願に根拠がなければ、後から権利範囲を自由に変えることはできない」ため、初期段階での緻密な検討と専門家との連携が、数年後の事業の命運を分ける一手となり得るのです。分割出願は、まさに変化に強い、ダイナミックな知財戦略を実現するための切り札と言えるでしょう。
3.競争優位を築く特許戦略
特許は他社の模倣を防ぎ、自社の事業を守るための権利ですが、その視点を「自社の製品・サービス」だけに限定していては不十分だと、大谷先生は指摘します。
重要なのは、「他社がどのような製品・サービスを展開してくるか」「他社が参入してくるとしたら、どこを抑えれば効果的か」という視点から権利範囲を設計すること。
自社では実施しないかもしれない技術でも他社が実施する可能性があり、それをブロックできれば競争優位に繋がります。分割出願などを活用し、他社の動きを予測しながら戦略的に権利網を構築することが、真に「使える」特許ポートフォリオの構築に繋がる。自社の事業だけでなく、競合の事業展開まで見据えた知財戦略が求められているのです。
今回のレポートは、両先生のお話の核心部分を凝縮したものです。
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