法務コラム
なぜスタートアップには法務戦略が必要なのか?〜AZX後藤代表×GVA山本が解説する、スタートアップ経営における法務戦略の役割とは〜
投稿日:2025.05.20
1. スタートアップ法務の歴史と重要性の変遷
スタートアップ法務の第一人者であられる後藤先生によれば、ナスダックジャパンやマザーズといった新興市場が誕生した頃、スタートアップ(当時は「ベンチャー」と呼称)を専門とする弁護士はまだ少数でした。
しかし、IPOを目指すスタートアップが増加し、赤字でも成長性が評価されるようになると、IPO審査における法務の役割が徐々に変化、重みを増していく。ITバブルやその後のバイオブームといった産業の波と共に、ビジネスモデルも複雑化し、法務に求められる専門性も、かつてのゼネラルな対応から、フィンテック、SaaS、バイオといった特定分野に特化したものへと深化しました。
特に上場審査においては、かつては比較的緩やかだった労務管理が、社会情勢の変化と共に厳格化。未払い残業代の問題などがクローズアップされ、企業の存続に関わる重要リスクとして認識されるようになりました。
また、資金調達手法も、優先種類株の登場・普及・高度化という変遷を辿り、M&Aによるイグジット戦略の重要性が増す中で、法務はより戦略的な役割を担うようになっています。
2. 法務を後回しにした企業が遭遇した具体的なトラブルや障害
法務対応を後回しにした結果、スタートアップがどのような具体的なトラブルや事業成長の障害に直面するのか、後藤先生が実際の失敗事例を解説します。
「株式」関連では、会社から買取資金を借りるなど安易な自己株の買取りが財源規制違反などの違法な自己株式取得と実質的にみなされ、IPOが頓挫するケース。違法な自己株取得には刑事罰もあるので注意が必要。「知財」では、創業初期の職務発明規程の不整備により、最悪の場合、当初開発した主力事業の根幹技術の権利を失うリスクが生じます。
実際にIPO直前に創業初期の元開発者を海外まで探し出し、権利譲渡の交渉に追われた事例も。外注開発における著作権処理の甘さも同様です。「契約」面では、事業初期に深く考えずに締結した競業避止義務条項が、後の事業拡大の足かせとなり、IPO審査で大きな障害となることがあります。
事実上黙認されていても、法的には違反状態であり、その解消に多大な労力を要する事例もあります。放置していた特許侵害の警告書の存在が上場直前に発覚し、上場遅延という深刻な事態を招いたケースも。
これらの事例は、気付かない創業初期の法務論点や、後回しにした法務がIPOという重要な局面で致命的なリスクに直結することを示しています。
3. スタートアップ経営において法務を経営課題として考えるべき理由
法務の活用によって事業を加速化させることもできる。法務は事業成長を左右する重要な「経営課題」であると、両氏は強調します。
例えば、許認可が必要なビジネス領域であっても、初期フェーズでは許認可が不要な形で事業をデザインし、資金調達や事業の進捗に合わせて戦略的に許認可を取得していくといったアプローチは、まさに経営判断そのものです。
また、著作権などについても、初期は完全にホワイトな領域でなくてもまずはサービスを展開しつつも、事業価値の向上と共に関係者との交渉を進め、最終的にホワイトな状態に移行させる戦略をとることもあります。
さらに、ルールが未整備な新しい市場においては、グレーゾーン解消制度の活用や業界団体設立を通じたルールメイキングへの積極的な関与が、自社だけでなく業界全体の成長を促し、結果として自社の事業環境を有利に導きます。
GVA TECHがAI契約レビューサービスで業界団体設立を主導した事例も、法務を経営課題として捉え、攻めの姿勢で市場形成に取り組んだ好例です。このように、法務を経営戦略の一環と位置づけることで、リスクを機会に変え、持続的な成長を実現できるのです。
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