法務人材の採用市場は急速に成長しており、求人数は増加の一途を辿っています。企業同士での法務人材の奪い合いによる採用の長期化によって、既存社員の業務負担は増加、早期離職を引き起こすスパイラルにつながっています。法務業務の可視化、データ化は何を実現するのか。

管理部門の人材に特化した人材サービス領域において国内最大規模である株式会社MS-Japan常務取締役COOの藤江様に、採用激化時代の優秀な人材の確保、法務人材を取り巻く市場、業務データを活かした組織マネジメントについてお話いただきました。

藤江 眞之
株式会社MS-Japan
常務取締役COO

上智大学経済学部卒、法科大学院中退後の2006年4月に株式会社MS-Japanに入社。人材紹介事業部にて営業を経験。翌年に人事部門の立ち上げを行い全社の人事制度設計を行う。その後社長室室長としてメディア事業(現在のManegy)などの新規事業企画全般を担い、自社の上場準備の開始と共に取締役管理部長に就任。
2016年12月に東証マザーズ上場、2017年12月に東証一部への市場変更を達成。その後、経営企画室長も兼務し、CVCの投資委員をする傍ら、ダイレクトリクルーティング事業の立ち上げを実行。
現在は常務取締役COOとして管理部門を離れて全社の事業統括を担う。

山本 俊
GVA TECH株式会社
CEO/弁護士

弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にスタートアップとグローバル展開を支援するGVA法律事務所を設立、2022年ジュリナビ全国法律事務所ランキングで43位となる。
2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。AI法務アシスタント、法務データ基盤、AI契約レビュー、契約管理機能が搭載されている全社を支える法務OS「OLGA」やオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」等のリーガルテックサービスの提供を通じ「法律とすべての活動の垣根をなくす」という企業理念の実現を目指す。

藤江眞之様(以下、藤江様):

こんにちは。私は株式会社MS-Japanの藤江と申します。当社は管理部門の人材に特化したサービスと、会計・法務・労務・教育のビジネスメディアを運営しています。以前は営業現場で活動し、上場準備の際に管理部門長を経験しました。現在は全事業の統括を担当しています。管理部門ではガバナンスに焦点を当て、法務や総務などの実務も経験しました。当社は管理部門・士業領域の人材サービス分野で国内最大規模の企業であり、法務の採用市場についてもお話できればと考えています。よろしくお願いいたします。

山本:

山本です。以前は10人規模の法律事務所を経営し、法務の人材採用に課題を感じていました。現在はGVATECHという企業でリーガルチェックのサービスを提供しており、データ蓄積を通じて評価や組織体制の構築に活用しています。
本日はそのサービスの流れについてご紹介いたします。よろしくお願いします。

法務人材を取り巻く市場

藤江様:
企業法務の一般事業会社の法務の転職採用市場についてのデータを紹介します。弊社の人材紹介事業とダイレクトリクルーティング事業の中で、主に人材紹介事業のデータによると、昨年度の法務の求人数は年間ベースで12.9%増加し、1936件の求人が寄せられました。この急速な伸びは他の職種よりも著しく、企業の法務人材の需要が高まっていることを示唆しています。

資料の右のグラフでは、MS-Japan全体の求人と求職者の数を示しています。当社は管理部門と士業に特化しており、全体の求人数1万4960件に対して、転職の登録者数は1万6245名となっており、求人倍率は0.92倍です。これに対し、法務人材に関しては求人が1936件、登録者が499名で、求人倍率は3.88倍と高くなっています。この倍率から、法務の経験者が競争の激しい状況であることが伺えます。

法務の求人倍率が激化している理由についてデータを紹介します。組織の成長に応じて管理部門の人材を採用していく中で、小規模の企業では経理や総務の一人ずつで対応できるが、大規模になると組織が拡大し、人事と総務が分かれるなどの変化が生じます。しかし、法務は依然として1人で担当する企業が多く、「1人法務」の組織が増加しています。数百人以上の企業になると法務の専任者が必要とされ、大企業ほど法務の需要が高まります。

逆に言えば、法務専任者は組織が成熟するまで最後に採用される傾向があり、大企業での求人が多いことが特徴です。具体的には、管理部門全体の求人では1001名以上の企業が56.3%であるのに対し、法務の場合は63.2%と、大企業が法務の求人に占める割合が増加しています。これが大企業同士で法務の人材争奪戦が激化している一因であり、中小企業やベンチャー企業が法務の人材を確保しにくくなっている背景です。

この資料は、弊社が運営しているビジネスメディア「Manegy(マネジー)」のアンケート結果であり、法務求人における必要スキルや募集要項に関するデータです。法務で最も必要とされるスキルの項目では、契約業務が54%で最も多く、知財や国際法務、戦略法務も増加傾向にあるものの、ほとんどの法務求人が契約に焦点を当てています。


契約法務において期待されるスキルは、契約書の作成とレビューなどが挙げられ、電子契約の普及に伴い、契約書のデータ化や管理に対する重要性も増しています。

次に多い項目は本契約関連のスキルであり、後半でGVA TECH 代表 山本社長が詳細に説明する予定です。

法務人材の市場と募集の背景に焦点を当ててみると、経理や人事など他の職種の半数近くが欠員補充のための募集であるのに対し、法務においては企業が成長する中で最後に必要になる職種であり、増員募集が83%を占めています。これは法務人材において転職市場への人材供給が少ないことを示唆しています。一方で、増員募集が多いために需給バランスが悪化している可能性があります。

人材不足を解消するための打ち手

藤江様:

法務の採用倍率が高く、優秀な人材争奪戦が激化しており、ナショナルカンパニーでも採用プロセスが長期化しています。大手総合商社ですら1年間求人を掲載し、人気のある企業でも内定が辞退される事態が続いている。

この状況により既存社員も人員不足で業務負担が増大し、その負担に耐えられず早期離職が相次いでいる、といった概況が見受けられます。


各社の一つの打ち手としては、

未経験者採用が増加傾向にあり、法科大学院制度の導入や司法試験不合格のロースクール生の活用が考えられます。若手の弁護士を法律事務所から採用し、企業内で顧問弁護士との連携を通じて育てるケースも増えています。

一方で、育成は容易ではなく、適切な人材や時間が確保されていない場合、業務が定まらないなどの課題があり、計画的かつ中長期的な視点が必要となります。

打ち手としてもう一つ考えられるのが、業務量の削減が考えられます。DXやシステムを効果的に活用し、業務の効率化を図りながら業務量を減少させることが必要です。
弊社もOLGAのAI契約レビューモジュールというGVA TECHの製品を導入し、人材紹介においては同じ基準で各企業と契約しています。これにより、営業と法務の担当者とのコミュニケーションコストが毎回発生していた問題を解決しました。

次に外注についてです。特定の業務を法律事務所に委託し、アウトソーシングを進めることで業務量の削減に繋がる可能性があります。

ただし、事務所に依頼するとコストが高くつくことがあり、これはコストとのバランスが求められます。

また、こうした課題は単にシステムの導入だけでは解決しづらいことがあります。
法務のシステム導入には経営陣への説得が必要であり、システムの適切な運用や導入が難しい場合には業務が増加することもあります。

これらの点に関しても、後半の山本社長のアドバイスが頼りになるでしょう。

法務人材が抱える組織に抱える不満・求めること

法務人材が抱える組織内の不安や求めることについて、採用以前に、人が辞めてしまう主な原因は、業務負担が改善されないことと、頑張りが上司に認められないことです。

法務の業務内容や頻度が経営層に可視化されておらず、経営陣も具体的な状況を把握していないことが問題です。このままのキャリアで成長できるのか、人事評価に納得感が生まれないと感じているようです。

採用難が続くことで起き得る負のサイクル

この図は、採用難が続くことで発生する負のサイクルを示しています。競争が激しく採用活動が長引くと、優秀な人材の確保が難しくなり、業務が過密になり、従業員の疲弊とロイヤリティの低下が生じます。これが更に既存社員の離職や早期離職を引き起こし、負のサイクルが形成されてしまいます。

では、この負のサイクルを脱却するためには何ができるのか?
というのが本日のテーマになります。

打ち手を行うための第一歩は

第一歩としては、業務の棚卸だと考えております。
法務が何をやっているのかを可視化しましょう。それには法務業務のデータ化が必要です。

法務業務のデータ化が秘める可能性

法務業務のデータ化には、自動化による業務改善が可能であり、これにより何を行っているかが明確になり、人事評価も適正に行われます。人員の不足や増員計画も可視化され、業務の透明化はキャリア支援にも利用可能になります。
更に委託業務も明確になり、可視化された状態では人員の定着がしやすく、入社者にも明確な業務内容が伝わり、優秀な人材が引き寄せやすくなることができます。

これにより、負のスパイラルを打破し、プラスの循環を構築するためにデータ化が重要であると考えています。

データ化の手法やポイントについては山本社長にもお聞きし、ヒントを得ることが重要であると思います。

では、ここから山本社長にバトンタッチさせていただきます。

法務業務は何から可視化をするべきなのか?

山本様:

続きを山本が進めさせていただきます。法務業務の可視化は何からするべきか。
契約書に焦点を当て、レビュー、電子契約、締結済み契約書の管理などのプロセスが重要です。
全ての契約書が法務によって扱われているかどうかは把握が難しいため、法務の案件管理の前段階、つまりこのプロセスのデータ化が最も重要なポイントとなります。

法務データ基盤システムとは

法務データ基盤システムの概念図になります。
契約審査、相談、審査、コメントなどの情報を一元化し、案件の傾向、意味、定性的なやり取りも確認できます。
これらを蓄積することで案件数、契約類型などのデータも見ることができます。

法務案件管理データから観える組織マネジメントの可能性

法務の案件管理データを有効に活用することで、企業がどのような可能性があるのか、各社の声や意見をまとめてみました。

マネジメントの立場から見て、部下にはまず、彼らがどのような業務を担当し、どのスキルを身につけたいか、足りないものは何かを含めて、業務の進捗や処理した案件数、難易度を理解することで、その後、難易度の高い業務に挑戦するよう促せるようになります。

リアルタイムで業務を可視化することは、マネジメントをより円滑に進める手段と考えられます。

次に、ナレッジマネジメントについてです。
法務人材が転職する際、その企業の専門的なノウハウを習得したいという欲求があるでしょう。しかし、ナレッジマネジメントが不十分であると、転職者の目的達成が難しくなる可能性があります。
採用という観点から見ても、ナレッジマネジメントが今後重要な要素となるでしょう。

次に人事評価ですが、一般的には比較的定性的な面で評価されがちです。
可視化によって確認ができる担当案件数をベースにし、中身や難易度なども考慮してフィードバックを行うことが、納得感を生む要因となると考えられます。

参考として、GVA法律事務所では基本スキルや行動規範を評価する10項目を設定し、それぞれ10段階で評価して掛け算する方法で、基本給の絶対評価を導き出しています。
担当案件の売上部分も評価の一環として考慮し、定量的な評価と併せて、1 on 1形式でのコメントや日報を元に行った定性的な評価を実施していました。

データを用いた人事評価の具体例

では、もう少しデータを用いた人事評価の具体例に触れていきます。

業務基準の設定は難しい課題であり、これには過去のデータや経営陣が望むスピード感、案件における品質とコスト、技術の明確な定義が必要です。特に品質においては難易度が高く、スピード感と品質の関連性についての議論もあります。例えば、契約書を100個チェックすることが品質の高さを示すか微妙であり、最低限損害賠償の制限情報などを絶対に含めるべきです。しっかりとバランスを取り、コストについても業務品質の標準を定め、どれくらいの時間をかけ、何日以内に対応を完了させるかを基準に設定することがスタートラインとなります

次に、目標設定ですが、非定型的な部分は随時対応する必要があります。
このようなバランスの中で、メンバーの力量を踏まえて、特定の件数と品質の目標を設定し、それをチェックしてデータとして蓄積します。
進捗状況のデータ収集と報告に抵抗感を感じるメンバーが多いかもしれません。その際には、メンバーに昇給やキャリアアップに期待していることを伝え、更に給与交渉や報告に有利になるような武器が欲しいことを伝えることで、協力を得ることができるかもしれません。
最初は難しいかもしれませんが、給与や評価が上昇すると協力が得られるケースもあることから、正しくメンバーに協力を仰ぐことはポイントになります。

データには定量的な側面と定性的な側面の両方が必要です。
法務のメンバーを評価する際、単にこなした案件数だけでなく、定性的な要素も重要だと考えます。ただし、基本となるデータの収集は重要だと思います。

最後に評価ですが、データをもとにフィードバックを行い、未達成の場合は気づきや課題に対してのサポートを実施する。定めた基準を回していくことは、最初の段階では必要だと思います。

集計データをどのように活用するのか?

データの活用におけるポイントは、経営陣に法務業務を理解してもらうことにあります。そのため、組織内での法務業務の進捗状況を報告することが重要です。

更に人事評価の根拠としても活用できます。メンバーの評価には、報告を定量的かつ定性的に積み上げていくことが重要です。経営陣には理解しづらい業務もある中、私は法務出身の経営者として法務には理解がありますが、情報システムやセキュリティなどはブラックボックスに映ります。定量的な説明があれば理解が進みやすく、共通の言語があることは重要だと考えております。

メンバーに業務改善の提案を都度行うのは理想的ですが、常にこれを実現するのは難しいでしょう。データを蓄積し、定期的な機会を設けて報告を行うことで、改善や目標設定が可能と考えます。
業務評価の根拠として、法律の業務を理解してもらうための武器として、根拠を集めて協力を得ることは、メンバーに対する理解を深める上で重要です。

データ化をするための手段

データ化の際には様々な数字が考えられます。日報を効果的に利用することができれば良いと思いますが、運用が煩雑で避けられることもあるでしょう。重要なのは、定性データが最も意味を持つと考えられます。エクセルやスプレッドシートでの管理においては、一部の担当者が積極的に取り組み、月末や年末にまとめている例が一般的です。

クラウドツールの活用で楽に進めることが期待されます。定量データには適していますが、定性データやカスタマイズ性には課題があります。
日報はワードを使用し、柔軟な設計を行いますが、自動集計にはエクセルを併用することがケースとしては多いです。
手作業が増えるため、誰かが積極的に取り組まないと難しい側面があります。また、永続性の観点からも課題が生じることがあります。


データの活用は、採用活動においても有益であり、業務を適切に把握し、適切な評価が可能です。人材獲得と定着においてデータを効果的に利用することが期待されます。

MS-Japanの法務人材採用支援も人手不足や求職者の方が少ないという課題があります。

法務データの活用に関しては2023年1月にリリースしたOLGAの法務データ基盤モジュールでご支援できます。

OLGAの法務データ基盤モジュールについて

山本:

OLGAの法務データ基盤モジュールは案件管理のサービスで、定性的なバージョン管理、コメント、事業部間のやり取りを自動で格納します。依頼を受けた時点で定量データ化し、分析ダッシュボードでチームや部署ごとの割合、契約類型、法律相談などを確認できます。採用計画もしやすくなり、1人当たりの案件数を把握し、増えた人材の適切な配置や工夫ができます。これは経営陣へのアピール材料であり、給与交渉の際の有力な武器となります。

更に検索機能を使い、ナレッジマネジメントにも貢献します。

データ活用についてはメンバーごとの案件数、対応案件のばらつきも定量的に把握できます。運用浸透という面で、案件管理とセットにしないと、データ集計に別作業が発生してしまい、ただでさえ人手不足で忙しい組織の中では厳しいです。
定性データを集計すると日報と組み合わせないといけないですが、その人が担当した案件を全部閲覧し、品質は後で見返すことができます。

OLGAの法務データ基盤モジュールについては、ご興味のある方は定期的にセミナーを開催しておりますので、是非ご参加ください。

それでは、お時間になりましたので、セミナーは終了させていただきます。
藤江 様、本日はご登壇ありがとうございました。

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