法務コラム

スタートアップの成長を加速するファイナンスとインセンティブ設計〜AZX菅原弁護士×GVA小名木弁護士が明かす、資本政策・SO設計の最新トレンドとよくある失敗事例〜

投稿日:2025.05.20

1. 参加型・非参加型優先株式の最新動向と実務

スタートアップの資金調達における優先株式の「参加型」と「非参加型」。

小名木氏は、M&Aの際、参加型は投資家が多くを持っていき、非参加型は少なくなる傾向にあるといいます。
現状、菅原先生は「日本では95%以上、以前は99%が参加型」と指摘し、依然として参加型が主流であるものの、非参加型を打ち出すVCも現れ始めていると述べました。

しかし、小名木氏は「スタートアップ側が非参加型を要求しにくいパワーバランスが一番大きな問題点」と指摘。菅原先生は、非参加型は10年以上前から存在し、それがグローバルスタンダードである認識があったものの、最近注目される背景にはグローバル投資家の呼び込みや経産省の意向があると解説しました。

両氏は、参加型・非参加型それぞれにバリュエーションへの影響があり、交渉によって決めるべき事項であるものの、日本はまだその交渉の土壌が未成熟であるとの認識を示し、スタートアップ側も選択肢があることを認識し、適切に交渉することの重要性を訴えました。

 

2. 投資契約関連の注目すべき諸論点

「IPOラチェット」は、ダウンラウンドIPO時に優先株の転換比率を調整し投資家を保護する仕組みです。菅原先生は、海外では標準的だが「日本ではIPO価格決定前に優先株を普通株に転換する運用が障害となり、ラチェットが発動できない」と実務上の課題を指摘。小名木氏も、この運用変更の必要性と、IPOラチェットがレイターステージVCの投資促進に繋がる可能性に言及しました。

次に「J-KISS」はシード期調達で急増していますが、菅原先生は「転換計算式が非常に難解で、多くのケースで検討初期段階では計算を誤っている印象。安易な雛形改造も計算不能を招く」と警鐘を鳴らします。小名木氏も、複数回発行後に起きる不備や、投資家との認識齟齬の事例を挙げ、専門家によるダブルチェックの重要性を強調しました。

買取り条項についても触れられ、経営株主を対象に含めるか否かは、VC側とスタートアップ側双方の視点から議論があることが示されました。

 

3. スタートアップの成長を加速させるインセンティブ設計の網羅的解説

インセンティブ設計の核となるストックオプション(SO)。

まず「ストックオプションプール制度(経産省認定)」について、小名木氏、菅原先生は「株主総会決議なしで機動的にSO発行をできるが、認定申請の煩雑さや、頻繁に株主総会を開くスタートアップにはメリットが薄く、実際の活用事例は少ないであろう」と説明。

次に「セーフハーバールール」を活用した1円SOについて、菅原先生は「純資産から優先株の優先分配額を控除することで、実質1円でSO発行が可能になる。シード・アーリー期での活用が増えている」と解説。

しかし、小名木氏は「この1円SOが本当に従業員のモチベーションに繋がっているか疑問を持つVCもいる」と指摘。菅原先生も「従業員が価値を理解せず、経営者が思うほど持続的な効果がないこともある。

会計上の費用計上の問題や、VCから『ただで株をばらまいている』と見られている懸念もある」とし、両氏は、真に効果的なインセンティブ設計を検討すべきとします。そのSOによってどういった目的を実現したいのか、フェーズ・付与対象者ごとにその目的も変わるはずで、それごとに適切な設計を考えなくては、インセンティブとして機能しないことを訴えました

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